2017/12/08発行 ジャピオン945号掲載記事

心と体のメンテナンス

テロメアの不思議(後編)

抗老化とテロメアの保護 日常生活見直しが最重要

テロメアと老化の関係は?

 人間の体は、細胞分裂を繰り返して成長します。この分裂に重要な役割を果たしているのが、染色体の末端に位置するテロメアです。

 テロメアは、細胞分裂のたびに端から少しずつ短くなります。ある程度まで短くなると、その細胞はそれ以上分裂できなくなり、新しい細胞が作られなくなります(前編参照)。そういう意味では、加齢に伴う新陳代謝の低下に、テロメアの長さも関係している可能性があります。

 近年は、テロメアの長さ(減り具合)から計算する「老化度」が取り沙汰されています。しかし、テロメアがどこまで短くなると老化の兆候が見られるかなどは、実のところまだよく分かっていません。骨粗しょう症・心臓疾患・呼吸器疾患など、高齢者に特徴的な老年病の発症とテロメアの関係もしかりです。

 約6万5000人を対象に白血球のテロメアの長さを調べたデンマークの研究では、同じ年齢でも、テロメアの長さが下位10%に入る人は上位10%の人よりも、「老化度」が3歳分ほど高かったようです。最短と最長のグループの違いが3年しかないことから、テロメアが多少長くても短くても、寿命や老化の速度にはそれほど大きな影響はないといえます。

 老化は、さまざまな要因が関与して起こる複雑な現象です。テロメアの短縮は、その一つにすぎません。

テロメアと病気の関係は?

 ごくまれなケースですが、生まれつきテロメアが極端に短い病気が知られています。テロメアが短いために、さまざまな臓器に異常が起こります。

 ほかにも、心臓疾患、肺疾患、肝硬変などの患者は、健康な人よりもテロメアが短いことが示されています。テロメアが短いことが病気の原因なのか、それとも結果なのかは、一概には言えません。が、多くの場合病気になる過程で、臓器の損傷によって細胞が余計に増殖(分裂)した結果、テロメアが短くなったと考えられます。短くなると、細胞の分裂が妨げられ、組織の回復能力が低下するという悪循環も予想されます。

テロメアを伸ばせば、老化を遅らせることができますか?

 答えはイエスでありノーです。

 幹細胞や生殖細胞などの一部細胞では、「テロメラーゼ」という酵素の働きによって、細胞分裂後もテロメアが短くなりにくいことが分かっています。大人のマウスでテロメラーゼを活性化させたところ、老化現象の進行が一部抑えられたという研究結果が複数報告されました。同じように、人間でも老化を遅延できる可能性はあると考えられます。

 一方、テロメラーゼの活性は、がんの発生リスクを高める危険があります。がんになる前の細胞は、非常に多くの分裂を繰り返します。その分、テロメアが短くなるのも早いので、普通は、がんになる前にその細胞は死滅します。ところが、テロメラーゼによってテロメアが維持されると、細胞が生き延びて、がんになりやすくなってしまうのです(図参照)。実際、人間のがんの85%以上でテロメラーゼの活性が高くなっていることが分かっています。

サプリでテロメアを伸ばせますか?

 テロメラーゼの補充や活性化をうたったサプリが販売されていますが、科学的根拠はありません。テロメラーゼ活性化はまだ研究段階であり、単純に外から摂取すればいいというわけではないのです。テロメラーゼ過剰発現マウスではがんが増えることが報告されており、副作用にも注意が必要です。

テロメアを守るためにできることは?

 喫煙・活性酸素・紫外線・過度のストレスは、DNAの損傷などを介し、テロメアの短縮につながります。また、肥満は糖尿病や心臓・血管の疾患といったさまざまな病気の危険因子であり、これら病気の患者もテロメアが短いことが指摘されています。

 常識的なことですが、健康で長生きするためには、まずこれらの危険因子を避けること。そのためには健康な食事と生活習慣を心掛け、運動や家族・知人との交流を通してアクティブに過ごすこと。これらが何より重要であり、テロメアを守ることにもなるのです。

※来週は、遊馬吉右衛門先生に目の病気についてお聞きします。


 

人間の細胞では分裂のたびにテロメア(緑の部分)が短縮する。テロメアが極端に短くなった細胞はそれ以上分裂できなくなり、その細胞は死に至る。一方、幹細胞・生殖細胞など一部の細胞では、テロメラーゼという酵素の働きによって、細胞分裂後もテロメアが短くなりにくい(図提供:高井博士)
HEALTH

高井裕之先生
Hiroyuki Takai, PhD

ロックフェラー大学研究員。東京大学大学院理学系研究科修了、理学博士。日本の国立長寿医療研究センターの博士研究員を経て2001年から現職。テロメアが染色体を保護する仕組みを研究。テロメアに関する論文発表や講演など多数。

The Rockefeller University Laboratory of Cell Biology and Genetics

WEB
http://delangelab.rockefeller.edu
MAP
1230 York Ave. (at 66th St.)

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