2017/10/13発行 ジャピオン937号掲載記事

心と体のメンテナンス

すぐできる、けがと転倒予防(後編)

日常生活でできるけが予防 体のバランスと機能を回復

けがを防ぐために自宅でできる運動は?

 けがを予防するための指導は、アスレチックトレーナー(ATC)の重要な仕事の一つです。子供から高齢者まで自宅で簡単にできる、「けがをしにくい体を作るエクササイズ」をご紹介しましょう。

 まず、体全体のバランスを養うことが大事です。バランスが悪いと、ちょっとしたことでふらついたり、踏ん張りがきかなくなったりして、転びやすくなるからです。

 平らな場所に足を肩幅に開いて立ち、目を閉じます。バランスは加齢とともに衰えるので、特に高齢者や、病気やけがをしてしばらく運動をしていなかった人は、このとき体がグラグラと揺れるかもしれません。転ばないように、壁の近くなど、つかまる物がある場所を選んでやってください。

 ふらつかずに立てるようになったら、次は目を開けて片足で立ちます。それもできたら、目を閉じる、他人に体を軽く押してもらうなど、徐々に難易度を上げていきます。最初はふらつく人が多いのですが、練習を重ねると次第にバランスが取れるようになります。

「プロプリオセプションを鍛える」とは?

 「プロプリオセプション(proprioception)」とは、日本語で、感覚受容器や固有受容器と呼ばれているものです。簡単にいうと、頭や胴体、手足などの体の各部位が「空間のどこにあるか」を感じ取る能力のこと。けがをしにくい体作りのために、体全体のバランスの向上とともに、この能力を鍛えることをお勧めします。

 例えば転びそうになると、体は傾いた方と反対側に体重を移動し、転ばないように踏ん張ります。私たちはこれを無意識のうちに、しかも一瞬で行っていますが、そのとき重要な働きをしているのがプロプリオセプションです。体の各部位の位置を感知し、その情報を脳に伝えることにより、脳が手足に指令を出し、転ばないように体を調整しているのです。

 プロプリオセプションの働きも加齢とともに衰え、けがによっても低下するといわれています。そのため、健康な人はもちろん、特にけがの後は、新たなけがや転倒予防のために、プロプリオセプションを鍛えることが大事です。

 それには、バランスボードを使った運動が有効です。バランスボードとは、平らなボード(板)の裏面に、半円形の小さな突起物をつけた運動器具です。ボードの上に両足で立つと、突起物を支点に、ボードが前後左右にグラグラ揺れます。このように不安定な場所で転ばないように体のバランスを取る練習をすると、プロプリオセプションを鍛えることができます。

 この運動は、足や膝をけがした人のリハビリや、下半身の強化に効果がある他、体のコアに働き掛けることもできます。

 ちなみに転びやすい人は、股関節の筋肉が弱く、脚がうまく上がっていない可能性があります。壁に沿って直角に立ち、壁に手を当てて体を支えた上で、膝を直角に曲げ、太ももが床から平行になるまで脚を上げる運動をするといいでしょう。

けがや転倒予防の運動は、いつからやればいいですか?

 いつからでもできます。一般的な助言ですが、バランスを取る運動とプロプリオセプションを鍛える運動は、合計10分ずつ、1日に2回やるといいでしょう。テレビを見ているときに片足で立ってみる、電車の中でポールに寄り掛からずに立つなど、日常生活に取り入れてもいいかもしれません。

 ただし、けがをした後にリハビリとしてやる場合は、いつから、どのような運動を、どのくらいの頻度で始めるとよいかなど、専門家の指導を受けることをお勧めします。専門家は、けがの症状や回復具合はもちろん、年齢、回復にかかった時間、サポーターなどで固定していた時間、人工関節の使用の有無など、あらゆる要素を考慮し、患者ごとに最適なリハビリ計画を立てることができるからです。

 日本人はけがをしても痛みや不便を我慢し、受診が遅れる傾向があります。日頃からけが予防に努めることも大事ですが、異常に気付いたら早めに専門家の治療を受けることも、体のメンテナンスには重要です。

※来週はカストロ牧子さんに、「姿勢と食生活見直しによる心身の健康」をテーマにお聞きします。


 

バランスボードで運動する様子。バランスボードにはさまざまな種類があり、運動関連用品店で数十ドル程度から販売されている
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森泰穂さん
Yasuho Mori, ATC, CPed

NATA-BOC公認アスレチックトレーナー(ATC)、ABC公認ペドーシスト(CPed)。アラバマ州立トロイ大学アスレチックトレーニング学科、ミドルテネシー州立大学大学院運動科学科卒業。大学院時代、陸上部専属ATCとして経験を積む。現在、3D足型計測器メーカーの勤務経験を生かし、ランナー、一般の人に対する足データの分析、シューフィッティングの助言も行なっている。サッカーチーム「FCジャパン」のATC兼務。

MIKA HAYASHI, DPM, PC
林美香足病科クリニック

TEL
212-682-0043
MAP
350 Lexington Ave., #501 (建物入り口は40th Street沿い)

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