2017/09/22発行 ジャピオン934号掲載記事

心と体のメンテナンス

DNAの傷とがん(後編)

「DNAの傷」とがん対策 生活習慣と定期検診が鍵

私たちの体は、傷ついたDNA(デオキシリボ核酸)をどのように治しますか?

 がんの95%は、生まれたときは何の問題もなかった遺伝子が、何らかの原因でうまく働かなくなることで起こります(前編参照)。その代表例がDNAの傷であり、傷を放置すると非常に危険です。

 DNAは、さまざまな要因で頻繁に傷を受けており、切れたり、化学的構造が変化したりなど、傷のつき方も多種多様です。それにもかかわらず、私たちの体の細胞はほとんどの場合、傷をきれいに修復することができます。その鍵となるのが、DNAの構造です。

 DNAは、2本のひも状の物質が平行に並び、らせんを描く形をしています。重要なのは、この2本のひもが、互いの「バックアップ」として機能していることです。1本が傷つくと、細胞はまずその傷ついた部分を切り取ります。そして、無傷のもう一方を鋳型のように使い、取り除いた部分を新しく作り直します。このようにして細胞は、無数の傷を常に修復しています。

細胞が治せないDNAの傷はありますか?

 まれですが、2本のひもの対になった部分が同時に傷つくと、細胞はこの「バックアップ」を使った方法で傷をうまく治すことができません。

 細胞は、いくつか別の方法で修復を試みますが、元通りにできずエラー(異常)が残ってしまう場合があります。一部のがんは、こういったDNAの傷が原因で、正常な細胞ががん化したと考えられます。DNAの修復メカニズムには未解明な点が多く、がん研究の重要テーマの一つになっています。

DNAの傷から見たがん対策とは?

 二つの対策が考えられます。一つ目は、DNAに入る傷を減らすことです。
 がんの原因となるDNAの傷の多くは、生活習慣や環境によるものです。喫煙や過度の飲酒を避けたり、体に有害なウイルス感染を調べて治療したりすることで、DNAに入る傷を減らすことができます。

 また、適切な食事や運動、体重管理といった生活習慣を見直すことで、DNAの修復力や免疫力の向上につながります。日本の国立がん研究センターによると、生活習慣の総合的な改善により、がんになるリスクを数十%も下げることができます。

 二つ目は、定期的な検診です。がんは不治の病といわれてきましたが、今では治療技術が発達し、早期発見すれば高い治療効果が望めます。ただ、早期がんは自覚症状がないことも多く、発見が遅れて放置すると、わずか数年で悪性度の高いがんになることもあります。

 また、細胞が修復できなかったDNAの傷は日々蓄積し、加齢とともにがんができる可能性は上がります。そのため医師と相談し、適切な検診を定期的に受けることが大事です。

 生活習慣を見直し、DNAにできる傷の総量を減らすこと、それでもできてしまうがんは、検診によって早期発見すること。この二つは、がんから身を守るための効果的な対策です。

DNAの傷に着目したがん研究とは?

 がんの進行に伴い、がん細胞のDNAのエラーは劇的に増えます。このことは、DNAの傷ががん化の原因となるだけでなく、がんのさらなる悪性化にもかかわる可能性を示しています。裏を返せば、DNAの傷には、がんの発生と進行を抑える重要な手掛かりがあるということです。

 DNAの傷を理解するためには、傷のつき方や、その修復の様子を詳しく調べることが必要です。それを実現する方法の一つが、細胞のDNAの修復過程を可視化することです(図参照)。

 私が現在所属する研究班は、実験動物を用いた研究によって、従来の1000倍の解像度で生殖細胞のDNAの傷を検出する方法を開発しました。その結果、DNAの傷を巧妙に治す細胞のミクロの世界が明らかになってきました。

 今後の課題は、実際に私たちの体の中で、DNAの傷が修復される様子を調べることです。がんに対する理解を深めることはもちろん、将来的にはDNA修復の観点から、より良いがんの予防や診断、治療の可能性を探っていきたいと考えています。

※次回からは森泰穂さんに、アスレチックトレーニングについてお聞きします。


 

細胞の中で傷ついたDNAが修復される様子を観察するイメージ図。がんの原因となるDNAの傷とその修復の仕組みの解明は、がんの予防や治療の向上につながると期待される(イラスト提供:山田先生)
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山田真太郎先生
Shintaro Yamada, PhD

メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター博士研究員。東京大学理学部卒業後、同大大学院理学系研究科修了、理学博士。日本学術振興会特別研究員、東京大学大学院総合文化研究科博士研究員を経て2013年から現職。専門はDNAの組み換えと修復。医療関係者と医学に興味がある人を対象とした米国日本人医師会(JMSA)主催のシンポジウム「JMSAニューヨーク・ライフサイエンスフォーラム」(2018年4月7日開催予定)の運営委員。

Memorial Sloan Kettering Cancer Center
Molecular Biology Program

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