2017/09/15発行 ジャピオン933号掲載記事

心と体のメンテナンス

DNAの傷とがん(前編)

2人に1人がなるがん 主因は「DNAの傷」

がんとはどのような病気ですか?

 がんは日本人の死因の第1位。毎年37万人、1日あたり約1000人もの日本人ががんで亡くなっています。日本人の2人に1人が生涯でがんになるとも言われており、誰にとっても他人事ではありません。

 私たちの体は、約60兆個の細胞でできています。両親から受け継いだ遺伝子の情報に従い、個々の細胞が規則正しく増えることによって体は作られます。がんとは、この遺伝子に異常が生じた結果、無秩序に増えて転移する細胞の塊です。そのためがんは「遺伝子の病気」とも言われます。

がんは親から子に遺伝しますか?

 確かに身内ががんになると、「自分の家系はがんになりやすいのではないか」と、どうしても不安になります。しかし、多くのがんは「遺伝」しません。

 遺伝性のがんもありますが、遺伝が原因として見つかるがんは全体の5%程度です。がんの種類によってこの数値は異なるものの、残りの95%のがんは、生まれたときは何の問題もなかった遺伝子が、何らかの原因で適切に働かなくなることで起こります。

がんができるきっかけは何ですか?

 喫煙や強い紫外線を長時間浴びるなどの生活習慣や環境、ウイルス感染など、さまざまな後天的要因が知られています。それらに発がん性が指摘される主な理由は、DNA(デオキシリボ核酸)を傷つけることです。

 DNAは「生命の設計図」とも呼ばれ、そこには私たちが生きていく上で大切な何万もの遺伝子の情報が「記述」されています。DNAが傷つくと、傷ついた部分に書かれた遺伝子の情報がうまく読み取れなくなったり、情報が書き変わって異常な遺伝子ができたりします。がん細胞も、もとは普通の正常な細胞ですが、このようなDNAの傷をきっかけに、遺伝子がうまく働かなくなることでがん化したのです。

DNAと遺伝子について、詳しく教えて下さい。

 血液型や髪の毛の色など、遺伝子とは体のあらゆる特徴を決めるものですが、DNAはその遺伝子の情報を保存するための物質です。

 DNAは主に細胞の核と呼ばれる部分にあり、2本の細長いひも状の物質が絡み合った二重らせん構造をしています。2本のひもは、A、T、G、Cと呼ばれる4種類の物質が鎖のようにつながってできており、私たちの体はそれらを文字のように使うことにより、文章を組み立てるがごとく遺伝子を記述しています。つまり、遺伝子の情報は、A、T、G、Cの順番としてDNAに保存されているのです。

 DNAは、遺伝子を親から子に、そして細胞から細胞に伝える役目を果たします。私たちは、もともと母体で1個の受精卵として生まれました。そのとき、父親の遺伝子は精子の中、そして母親の遺伝子は卵子の中に入っているDNAによって運ばれ、一つの受精卵に受け継がれます。両親から受け取ったDNAは、細胞が分裂する度に複製され、新しい細胞に引き継がれます。このようにして私たちの体を構成する全ての細胞が同じDNAを継承することで、同じ遺伝子に従って個々の細胞が規則正しく増えるのです。

「DNAの傷」はどのようにできますか?

 がん化にかかわるとされるDNAの傷の約3割は、喫煙などの生活習慣や環境が原因であり、残る約7割は、加齢とともに普段の生活の中で日々蓄積されたものです。

 細胞の中のDNAは、驚くほど常に「危険」にさらされています。皮膚の細胞一つをとっても、そのDNAは毎日約10万カ所、1分間に50~100カ所も傷を受けています。

 幸い細胞には、そのようなDNAの傷を効率よく治す仕組みが備わっています。ほかにも、免疫細胞が体の中の異常な細胞を見つけ、取り除く役割をしています。そのためほとんどの場合、DNAが傷ついても、すぐにがんになることはありません。

 一方で、生まれつきDNAの傷をうまく治せない人は、がんになりやすく、老化も進行が速いことが知られています。私たちの健康は、60兆個の細胞ひとつひとつが持つDNAの修復能力によって守られているのです。

※来週は、DNAの傷から見たがん対策について伺います。


 

発がん性物質の多くは、DNAを傷つけることでがんを引き起こすと考えられている(イラスト提供:山田先生)
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山田真太郎先生
Shintaro Yamada, PhD

メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター博士研究員。東京大学理学部卒業後、同大大学院理学系研究科修了、理学博士。日本学術振興会特別研究員、東京大学大学院総合文化研究科博士研究員を経て2013年から現職。専門はDNAの組み換えと修復。医療関係者と医学に興味がある人を対象とした米国日本人医師会(JMSA)主催のシンポジウム「JMSAニューヨーク・ライフサイエンスフォーラム」(2018年4月7日開催予定)の運営委員。

Memorial Sloan Kettering Cancer Center
Molecular Biology Program

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