2017/09/01発行 ジャピオン931号掲載記事

心と体のメンテナンス

睡眠と生活習慣病(前編)

不規則な生活と不眠 生活習慣病の原因に

寝付きの悪さと生活習慣の関係は?

 夜なかなか眠れない、夜中や夜明け前に目が覚める、などの睡眠に関する悩みは、大抵の場合、不規則な食生活、暴飲暴食、夜更かし、運動不足、昼夜交代勤務といった生活習慣の混乱が原因の、体内時計の乱れが関係しています。

 日中は心と体が活動状態になり、夜になると自然に眠くなるのは、体に体内時計が備わっているからです。人間の体内時計は、約25時間周期といわれます。1日は24時間なので、1日に1時間ずつズレが生じる計算ですが、そうならないのは、毎朝起きてから太陽光を浴びることで、体内時計がリセットされるからです。しかし、生活習慣の乱れなどから体内時計がリセットされない状態が続くと、1日数時間のズレが蓄積し、長期的に睡眠のバランスや体のリズムが崩れる原因になります。

睡眠にメラトニンが大事なのはなぜ?

 メラトニンは、脳の松果体(しょうかたい)という場所から分泌される、睡眠を誘導する働きを持つホルモンです。したがって、メラトニンの分泌が低下すると、寝付きが悪くなります。

 体内時計は、メラトニンをはじめとするホルモンの調整にかかわっています。ホルモンは体の覚醒(かくせい)と睡眠状態の切り替えに重要な物質で、日中はオレキシンというホルモンが脳を活性化して覚醒状態を保ち、夜はオレキシンに代わってメラトニンの分泌が増加することにより、自然な眠気を生じます。

 日中ほとんど光を浴びなかったり、逆に夜間に強い照明の中にいたりして体内時計の働きが乱れると、メラトニンの分泌にも影響します。体内時計の指令を受けて分泌されるメラトニンの量が減り、分泌のタイミングも遅れてしまうのです。体内時計はさらに乱れ、やがて慢性不眠に陥ります。

 光のほかにも、暴飲暴食、運動不足などの生活習慣の乱れが、結果的にメラトニンの分泌低下を引き起こすことは言うまでもありません。

寝付きが悪い状態が続くと、どうなりますか?

 体内時計が狂った状態では、生体リズムも崩れるため、体にさまざまな悪影響が及びます。

 お話ししたように、体内時計はメラトニンをはじめたくさんのホルモンと、神経の働きをコントロールしています。そのため、例えば体内時計の機能が低下すると、血圧を上昇させるアルドステロンというホルモンの分泌が増え、自律神経(交感神経と副交感神経)の切り替えもうまくいかなくなります。すると、高血圧のリスクが上昇し、すでに高血圧の人は、状態がさらに悪化してしまいます。

 生活習慣病と不眠に関するある調査で、高血圧で治療を受けている患者の約30%が不眠を経験しており、高血圧でない人の約10~20%に比べ、不眠になるリスクが1・5~3倍になることが分かりました。

 高血圧を発症していない約5000人を対象に、「5年以内に高血圧になるリスク」を調べた別の調査では、平均睡眠時間が7~8時間の人のリスクを1とすると、5時間以下の人は1・32と、高かったそうです。つまり、睡眠不足が続くと高血圧になりやすく、いったん高血圧になると、さらに眠りにくくなるということです。

 次に、肥満への影響です。睡眠不足が続くと、食欲を増進させるホルモンの分泌が高まり、反対に食欲を抑えるホルモンの分泌が低下する結果、食欲が増し、食べ過ぎで肥満になりやすくなります。ある研究によると、睡眠時間が5時間未満の日本人男性が肥満になるリスクは、5時間以上の男性の1・36倍だったそうです。

 ほかにも、睡眠不足によって糖尿病のリスクが上昇し、すでに発症した糖尿病を悪化させることも報告されています。これは、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌が低下し、機能も低下することと関係しています。

 このように、生活習慣や睡眠が乱れて体のリズムが慢性的に崩れると、肥満、糖尿病、高血圧などの生活習慣病や、長期的には心筋梗塞、脳卒中、がんなどのリスクが上昇します。健康な体作りのためには、日頃から生活リズムを整え、睡眠を規則的にとる習慣をつけることが欠かせません。

※来週は、寝つきを良くする方法や、時差ボケ解消などについてお聞きします。


 

人間には1日周期でリズムを刻む「体内時計」が備わっており、心と体が日中は活動状態に、夜間は休息状態に自然に切り替わる。体内時計は毎朝光を浴びることでリセットされる(イラスト提供:堀口先生)
HEALTH_931_1

堀口道子先生
Michiko Horiguchi, PhD

コロンビア大学医学部・日本学術振興会海外特別研究員。九州大学大学院薬学研究員博士課程修了。元東京理科大学薬学部薬学科助教。薬剤師(日本の免許)、横浜市立大学医学部客員研究員・非常勤講師。病気になりにくい体作りを支援するため、特に体内時計・生体リズムの乱れと生活習慣病との関係を中心に研究を続ける。乳がん・卵巣がん患者支援団体SHARE(www.sharecancersup port.org)のボランティアスタッフ。

Columbia University Medical Center
Herbert Irving Comprehensive Cancer Center

WEB
http://cancer.columbia.edu
MAP
1130 St. Nicholas Ave. (bet. 166th & 167th Sts.)

バックナンバー

NYジャピオン 1分動画


ただいま配布中発行

巻頭特集
人気が過熱するブルックリン区ウィリアムズバーグ...

   
Back Issue ~9/7/2018
Back Issue 9/14/2018~
利用規約に同意します
おすすめの今週末のイベント