2017/05/26発行 ジャピオン917号掲載記事

心と体のメンテナンス

診断と同時に始める緩和医療(後編)

患者に適切な情報提供 治療の意思決定を支援

緩和医療を取り入れる利点や、取り入れた場合の成果は?

 根治のための治療と同時に、痛み、呼吸苦、治療の副作用などの身体的症状に加え、将来に対する不安、人間関係の変化など、疾患によって引き起こされる闘病中の苦痛を軽減できることがまず挙げられます。

 例えばがん患者は、痛みや、吐き気・倦怠感などの抗がん剤の副作用のせいで、根治的治療の継続が難しくなることがあります。緩和医療を取り入れることで、痛みや副作用が薬でうまくコントロールされ、生活の質(QOL)をできるだけ落とすことなく根治的治療を続けることができます。

 次に、患者が納得して治療を受けられることです。緩和医療科医師の重要な仕事の一つは、患者とその家族に、与えられた状況下でそれぞれの治療選択肢が現実的に達成できること、できないことを説明し、患者の人生観や価値観と照らし合わせ、何が最善の治療かを一緒に模索することです。

 どのような治療をいつまで続け、最期をどこで迎えるか、集中治療室での延命治療に意味があるかなどを最終的に決めるのは患者ですが、この決断は簡単ではありません。緩和医療科医師は、患者や家族の心情に配慮した繊細なコミュニケーションを通し、このプロセスをお手伝いします。

 がんの場合、体力は比較的保たれたまま推移し、一度悪くなると予後が比較的短い(従って先がある程度予測しやすい)という傾向があります。それに対し、心不全では増悪(悪化)と寛解を繰り返しながら病状が進行するため、患者はどんなに悪くなっても「また良くなる」という錯覚に陥りやすくなります(図参照)。

 いずれの場合も、病気の早期から「病状が進行したときには何が重要で、何を避けたいか」という人生観、価値観を家族と共有することが大切です。

緩和医療による延命効果は?

 転移性肺がん患者約150人を、従来の根治的治療に緩和医療を組み合わせて行った患者群と、従来の治療のみを行った患者群に分けて経過を調べたところ、前者が後者に比べてうつになる患者が少なく、QOLが高く、死の間際で抗がん剤治療をする患者が少なかったという結果が2010年に報告されました。画期的だったのは、それらに加え、緩和医療群で生存期間が約3カ月延長されたことです。

 その後も、複数の研究で生存期間の延長が報告されています。緩和医療というと、「(治療を)何もせず、そのまま死を迎える準備をする」という誤解がありますが、QOLを改善することが、予後そのものも改善する可能性が示唆されています。

緩和医療はどこで受けられますか?

 アメリカの場合、300床以上の病院の9割で緩和医療チームが存在します。つまり、大抵の病院で緩和医療を受けられるということです。疾患の痛みがとれないときや、副作用がつらいときなど、主治医や看護師を通じ、緩和医療を積極的にリクエストしてください。

 問題は、緩和医療科医師の数が重篤な疾患患者1200人あたりに1人と、絶対的に不足していることです。緩和医療は非常に範囲が広いので、特別の訓練を受けた緩和医療科医師だけでは到底全てをカバーできません。

 本来は専門科にかかわらず、全ての科の医師が基本的な症状コントロールや予後・治療目標の説明などを行い、難しい症状コントロールやコミュニケーションが必要になった場合のみを緩和医療科医師が担当するのが理想的です。残念ながら、医師の中にもこの部分を誤解しているケースが多々あります。

闘病開始にあたり大事なことは?

 重篤な疾患と診断されたら、自分で意思決定できなくなったとき、それを誰に委ねるかをまず考える必要があります。そして、患者、その人物、医師の三者間で人生観や価値観を会話し、共有することが大切です。

 繰り返しになりますが、治療の選択に必要な情報を提供し、闘病の苦痛を取り除くのが緩和医療です。予後や年齢にかかわらず、全ての患者と家族に緩和医療的アプローチが必要です。
 
※来週は、ユン・シーン先生にアレルギー疾患について伺います。


 

疾病によって経過は異なるため、それを理解して治療方針を決めることが大事(出典:LynnJ, Adamson DM. Living Well at the End of Life.AdaptingHealthCaretoSerious Chronic Illness in Old Age. Rand;2003から許可を得て改変引用したものを、翻訳・追記)
HEALTH

中川俊一先生
Shunichi Nakagawa, MD

米国内科・老年科・緩和医療科専門医師(Board Certified)。北海道大学医学部卒業後、同大学病院の耳鼻咽喉科と第一外科で研修後に来米。2005~2010年クリーブランド・クリニックで肝臓移植と一般内科研修、2010~2013年マウントサイナイ・アイカーン医科大学で老年内科・緩和医療フェローシップ研修を修了。2013年からコロンビア大学医療センター・緩和医療科助教。 

Columbia University Medical Center
Adult Palliative Care Services

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