2017/05/19発行 ジャピオン916号掲載記事

心と体のメンテナンス

診断と同時に始める緩和医療(前編)

緩和医療で生活の質を改善 根治的治療と並行して実施

緩和医療とは何ですか?

 重篤な疾患を抱えた患者に対し、その疾患が原因のさまざまな症状を取り除き、患者と家族の生活の質(QOL)を高めることを目的とした医療です。

 日本で緩和医療というと、実質的にほぼ末期がん患者だけに提供されていますが、アメリカは違います。がん患者は緩和医療対象者全体の約半分で、残る半分は、エイズ、呼吸不全、心不全、腎不全、認知症、クロニック・クリティカル・イルネス(ChronicCritical Illness=CCI)などです。

 CCIは、まだ日本であまり知られない病名ですが、3週間以上の人工呼吸器の装着など、高度な医療や看護によって命は助かったものの、体力や認知面の機能が格段に低下した状態を指します。1年後に自宅で機能的に自立して生活を送れる患者はわずか1割と言われ、患者のQOLの著しい低下が問題になっています。

「緩和医療=終末期医療」ですか?

 違います。従来、緩和医療は終末期医療と混同され、「根治的治療が効かなくなってから開始される医療」ととらえている人は医師の中にも多いのですが、それは大きな誤解です。末期患者に提供される終末期医療は、緩和医療の一部ではありますが、それが全てではありません。

 本来、緩和医療は終末期になってから始めるのではなく、重篤な疾患の診断と同時に、根治的治療と並行して開始されるべきです(図参照)。病名や予後(経過見通し)に関係なく、根治的治療と緩和治療は同時提供が可能です。根治的治療から緩和治療に切り替えるわけでも、根治的治療をあきらめるわけでもありません。

 治療は、患者や家族の希望にあったものが提供されるべきです。私が患者と日々接して感じることは、緩和医療を取り入れることにより、闘病中の苦痛が著しく軽減されることです。緩和医療による延命効果も、複数の試験で報告されています(後編参照)。

緩和医療では何が行われますか?

 第一に、症状の積極的なコントロールです。症状とは、痛みや呼吸苦、治療の副作用などの身体的問題に限りません。将来に対する不安などの精神的問題、収入・仕事・人間関係の変化などの社会的問題、存在意義にかかわるスピリチュアルな問題など、病気によって引き起こされるあらゆることが対象になります。

 第二に、患者や家族との密なコミュニケーションを通じた、患者の望む医療の提供です。医師は、基本的にコミュニケーションが苦手です。医学部から研修期間中を通し、疾患の診断や治療に関しては十分な指導を受けますが、コミュニケーションの訓練には驚くほど少ない時間しか割かれていないからです。

 対照的に米国の緩和医療科医師は、患者や家族にとって望ましくないニュースでも、言葉の選び方を含め、適切に伝える訓練を受けています。例えば、根治的治療の効果がなくなり、根治的治療中心から、苦痛を取り除く治療へと治療方針の変更が必要になったとします。緩和医療科医師は、主治医から要請があれば患者や家族とのミーティングに参加し、今後の治療選択肢や予後などを説明します。患者や家族が状況を正しく理解し、納得した上で治療方針を決めることは、最期を安らかに迎えるために非常に重要です。

 医療の細分化が進んだアメリカでは、一人の患者の治療に複数の科の医師がかかわり、情報が錯そうし、患者や家族が混乱することも少なくありません。緩和医療科医師は、情報の交通整理係となって患者と家族の理解を助ける役割も担っています。

 第三に、「トランジション」の検討です。退院が可能か、可能な場合、自宅、老人ホーム、介護施設など、どういった設定が最適で、どのような準備が必要かなどについて関係者間で話を進めます。

 以上が緩和医療の3本柱です。緩和医療チームは、医師を中心に、看護師、ソーシャルワーカー、聖職者などによって構成され、場合によっては理学療法士、薬剤師、栄養士、ミュージックセラピスト、マッサージセラピストなどの力を借りながら提供されます。主治医をサポートし、ケア全体の円滑な提供を図ることも、緩和医療科医師の大事な役割の一つです。
 
※来週は、緩和医療の効果や課題について伺います。


 

重篤な疾患の診断と同時に、根治のための治療と、QOLを上げるための緩和医療を同時に開始する「緩和医療組み込み型モデル」(図下)が推奨されている(出典:Lynn J, Adamson DM. Living Well at the End of Life. Adapting Health Care to Serious Chronic Illness in Old Age. Rand; 2003より許可を得て改変引用)
HEALTH

中川俊一先生
Shunichi Nakagawa, MD

米国内科・老年科・緩和医療科専門医師(Board Certified)。北海道大学医学部卒業後、同大学病院の耳鼻咽喉科と第一外科で研修後に来米。2005~2010年クリーブランド・クリニックで肝臓移植と一般内科研修、2010~2013年マウントサイナイ・アイカーン医科大学で老年内科・緩和医療フェローシップ研修を修了。2013年からコロンビア大学医療センター・緩和医療科助教。 

Columbia University Medical Center
Adult Palliative Care Services

TEL
212-342-4475
WEB
http://columbiamedicine.org/divisions/pc/pc.shtml
MAP
601 W. 168th St., Suite 37 (bet. Broadway & Ft. Washington Ave.)

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