2017/04/14発行 ジャピオン911号掲載記事

心と体のメンテナンス

肺がんと外科治療の最新動向(後編)

増える治療選択肢 低侵襲で高い効果

肺がんの外科治療について教えてください。

 肺がんの治療法には、主に外科治療(手術)、放射線治療、化学療法(薬物療法)があります。そのうち外科治療は、肺がんの根治療法と位置付けられています。さまざまな術式があり、がんの種類、進行度(ステージ)、患者の健康状態、肺機能などを包括的に考慮した上で、最適な方法を選びます。進行度によって、手術だけで治療することもあれば、化学療法や放射線治療を組み合わせることもあります。

 肺には右肺と左肺があり、右肺はさらに三つ、左肺には二つの肺葉(はいよう)で構成されています(イラスト参照)。手術が行われるようになった当初は片肺全摘術が一般的でしたが、手術技術・術後管理の向上、麻酔技術の発達などにより、現在は、がんのできた肺葉だけを切除する方法が標準手術に落ち着きました。リンパ管や血管網が発達した肺のがんは他臓器に転移しやすいため、通常、リンパ節(所属リンパ節)を切除するリンパ節郭清(かくせい)を同時に行い、所属リンパ節への転移の有無を調べます。

 2センチ以下のごく初期のがんで、胸部コンピューター断層撮影装置(CT)画像で〝すりガラス状〟に曇ったように見える、輪郭がはっきりしないがんの場合、肺葉よりもさらに小さな「区域」と呼ばれる単位ごとに肺を切除する術式も、最近は積極的に行われています。

外科治療の最近の話題は?

 いろいろありますが、低侵襲の術式として胸腔鏡手術が挙げられます。肋骨の間を1センチほど2、3カ所切開し、そこから内視鏡(管の先端にカメラを搭載した医療機器)と手術器具を入れ、モニターで患部画像を見ながら肺を切除する方法です。

 開胸手術に比べた場合の利点は、体への負担が軽減され、術後の痛みも少なく回復が早いこと、傷が小さいことなどです。全てのケースで胸腔鏡手術ができるわけではありませんが、いずれはこの術式も標準化されると思われます。

 胸腔鏡手術の進化形として、内視鏡手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使った手術も行われています。患者の体内に内視鏡とロボットアームを挿入し、それらを専用コンソールから遠隔操作します。ロボットアームを柔軟に操ることで、手の届きにくい部位の処置も正確に行えるようになると期待されています。

放射線治療や化学療法の選択肢も増えていますか?

 増えています。外科治療の場合と同じように、患者の体への負担をできるだけ抑え、効果が高く、副作用が少ない治療法の開発が進められています。

 放射線治療とは、高エネルギーの放射線を照射してがん細胞にダメージを与え、がんを小さくする治療です。従来はがん細胞と一緒に周辺の正常組織まで破壊されてしまうという問題がありましたが、最近はがんだけに放射線を集中させ、治療期間も格段に短縮することが可能になりました。例えば、定位放射線治療(SRT=Stereotactic Radiotherapy)という方法は、3~5センチ程度と比較的小さく、画像検査で他臓器・所属リンパ節への転移がないと思われる肺がんに対して行われます。

 ほかにも、CTで体の断面像を見ながらがんに直接針を刺し、それに通電してがん細胞を焼き切るラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法(RFA=Radiofrequency Ablation)や、逆にがん細胞を凍結して壊死させる凍結療法(Cryoablation)などがあります。放射線治療は、手術に耐えることができない高齢者、重篤な合併症を持っている人、喫煙などの影響で呼吸機能が低下している人などに有効な選択肢です。

 化学療法に関しては、従来の抗がん剤による多剤併用療法に加え、がんの遺伝子異常をターゲットとした分子標的薬、がん細胞に対する免疫細胞の攻撃力を高める免疫療法などの開発が活発に行われています。カテーテルを利用し、肺の血管に薬剤を直接届ける方法など、薬の効果を高める技術の研究も盛んです。

 早期発見に役立つ画像検査や治療技術は、確実に進歩しています。喫煙率低下による予防効果も、今後明らかになるでしょう。

※来週は、安藤晴一郎先生にカイロプラクティックと低出力レーザー治療についてお聞きします。


 

肺は気管をはさんで右肺と左肺に分かれており、右肺は3つの肺葉・10の区域、左肺は2つの肺葉・8の区域からできている(出典:荒井他嘉司『3D-CGで学ぶ新・肺区域解剖』)
HEALTH

小川史洋先生
Fumihiro Ogawa, MD, PhD.

外科医師(日本の免許)、医学博士。北里大学医学部卒業後、同大学病院呼吸器外科、がん研有明病院呼吸器外科で約10年間臨床経験を積み、同大学大学院医療系研究科で医学博士号取得。2014年からワイル・コーネル医科大学遺伝医療研究科で博士研究員として肺がん研究に従事。米国日本人医師会(JMSA)NYライフサイエンスフォーラム(4月8日開催)/フォーラムキッズ(4月23日開催)運営委員。

Weill Cornell Medical College

WEB
http://weill.cornell.edu
MAP
Dept. of Genetic Medicine 1300 York Ave. (at 68th St.)

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