2017/04/07発行 ジャピオン910号掲載記事

心と体のメンテナンス

肺がんと外科治療の最新動向(前編)

早期発見が難しい肺がん 二・三次喫煙のリスクも

日本人と肺がんについて教えてください。

 2015年の厚生労働省人口動態統計によると、肺がんは日本人男性のがん死亡原因の第1位、女性の第2位であり、年間約7万5000人が肺がんで亡くなっています。胃がん、肝臓がんの死亡率が近年低下しているのに対し、肺がんの死亡率は年々上昇しています。

肺がんの治療が難しいのはなぜですか?

 まず、早期発見が難しいことが挙げられます。がんが進行してから見つかることがほとんどで、手術で切除できる患者は全体の30%程度です。

 それには理由が二つあります。その前に、肺がんは、がん細胞の特徴から「小細胞がん」と、それ以外の「非小細胞がん」に大別され、非小細胞がんはさらに「腺がん」「扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん」「大細胞がん」に主に分類されます。

 肺中枢部(胸の中心)にできやすい扁平上皮がんと小細胞がんは、治りにくい咳、血痰(けったん)、呼吸困難などの症状が出ることがありますが、肺末梢部にできやすい腺がんと大細胞がんは、症状がほとんどありません。そのため、なかなか受診につながらないことが、早期発見が困難な一つ目の理由です。

 二つ目は、初期のがんは胸部単純X線画像に映りにくいことです。胸部コンピューター断層撮影装置(CT)画像だと、小さながんも見つかりやすいのですが、アメリカでも日本でも、非喫煙者へのCT検診は推奨されていません。検査の死亡率減少効果を示すデータが不十分で、X線検査よりも被ばく量が多いことなどが理由です。

 リンパ網や血管網が発達した肺にできたがんは、他臓器に転移しやすいことも、治療が難しい要因の一つです。転移したがんは、手術で全て切除するのが難しく、抗がん剤も一様に効くとは限りません。

タバコと肺がんの関係は?

 日本の国立がんセンターによると、肺がんによる死亡のうち、男性で70%、女性で20%は喫煙が原因と考えられており、喫煙者が肺がんで死亡するリスクは、非喫煙者に比べて男性で4・8倍、女性で3・9倍と報告されています。

 タバコの煙には4000種類の化学物質が含まれており、ニコチン、一酸化炭素などの有害物質が200種類以上、タールなどの発がん性物質が50種類以上といわれます。私たちの体は、喫煙による細胞のダメージを、ある程度まで修復できますが、喫煙本数が増えると修復が追い付かなくなり、ダメージが蓄積し細胞ががん化します。

 そのため、肺がんは50代以降で多く、1日の喫煙本数、喫煙年数、それら二つを掛けて表す喫煙指数(1日20本×30年=600など)が増えるほど、肺がんリスクも上昇します。喫煙指数が600を超える重喫煙者は、喫煙者に推奨される喀痰細胞診(かくたんさいぼうしん=痰の中のがん細胞を調べる検査)に加え、CT検査を受けることをお勧めします。

 特に扁平上皮がんと小細胞がんは、喫煙との関連が大きいことが分かっています。そのため、最近の喫煙率低下による減少が期待されますが、実は近年、喫煙の影響をあまり受けないとされてきた腺がんが増えています。腺がんは女性に多く、肺の末梢部にできるため、症状が出にくい厄介ながんです。増加の原因は不明ですが、陽電子放射断層撮影(PET)など、画像検査技術の進歩によって、自覚症状のないがんも見つかりやすくなったことと関連していると考えられます。

 何歳からでも、禁煙すれば発がんリスクを下げることができます。喫煙によって縮んだ寿命を、35歳で禁煙すれば10年分、50歳で禁煙すれば6年分取り戻せるという研究報告もあります。喫煙は、肺がん以外のがん、心筋梗塞、動脈硬化、高血圧、呼吸器系の病気など、全身の病気のリスクを高め、妊娠・出産にも影響するなど、百害あって一利なしなのです。

受動喫煙の健康被害とは?

 受動または二次喫煙とは、非喫煙者が他人のタバコの煙(副流煙)を吸い込んでしまうことです。ある研究によると、肺がんリスクは、受動喫煙によって2倍になると報告されています。最近は、喫煙者が去った後の「タバコの香」を吸う「三次喫煙」の健康被害も指摘されています。

※来週は、肺がんの治療についてお聞きします。


 

ニューヨーク市のテレビCM禁煙キャンペーン。希望者にニコチンパッチまたはガムを無料配布した。写真はCM映像の一部(写真提供:NYC Department of Health and Mental Hygiene)
HEALTH

小川史洋先生
Fumihiro Ogawa, MD, PhD.

外科医師(日本の免許)、医学博士。北里大学医学部卒業後、同大学病院呼吸器外科、がん研有明病院呼吸器外科で約10年間臨床経験を積み、同大学大学院医療系研究科で医学博士号取得。2014年からワイル・コーネル医科大学遺伝医療研究科で博士研究員として肺がん研究に従事。米国日本人医師会(JMSA)NYライフサイエンスフォーラム(4月8日開催)/フォーラムキッズ(4月23日開催)運営委員。

Weill Cornell Medical College

WEB
http://weill.cornell.edu
MAP
Dept. of Genetic Medicine 1300 York Ave. (at 68th St.)

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