2016/10/14発行 ジャピオン886号掲載記事

心と体のメンテナンス

トランスジェンダーのヘルスケア(後編)

メンタルヘルスケアが重要 医師との良好な関係構築も

メンタルヘルスケアについて教えて下さい。

 トランスジェンダーの人たちは、重度のうつや不安などの不調を抱えていることが多く、メンタル面のケアが非常に重要です。特に若者は、トランスジェンダーでない同世代に比べ、自殺率が高いことが分かっています。その大きな理由の一つが、社会からの偏見と差別です。

 私たちが暮らす社会は一般的に、男性として生まれてきた人には男性らしい服装や言動を、女性の体で生まれてきた人には、女性らしい服装や言動を求めます。それらの性別の定義から外れた子供たちは「問題児」のレッテルを張られ、家族や学校の教師、クラスメートなどからの偏見や差別、ひどい場合は、いじめや暴力の対象になります。子供はもちろん、うつや不安症状を患ったまま成長した青年や大人には、心身だけでなく社会的にも多くのケアや支援が必要です。

ホルモン療法や性別適合手術を受けた後もメンタルヘルスケアは必要ですか?

 はい、治療前と治療中に加え、治療後のケアも欠かせません。誤解されることが多いのですが、ホルモン療法や性別適合手術を受ければ、すべての問題が解決するわけではないからです。トランジション(性別移行)には、思った以上に時間がかかるかもしれないし、理想とする体型に必ずしも変わるわけでもありません。

 私が勤務するアピチャ・コミュニティー・ヘルスセンター(アピチャCHC)では、トランスジェンダーの人たちが抱える問題やニーズに詳しいメンタルヘルス専門家が常駐しています。患者のメンタルヘルスに取り組むと同時に、心身と社会面から、包括的ケアを提供するのが目的です。

 治療をこれから受ける人には、治療後の現実的な結果はどのようなもので、今後どのようなケアが必要かなどについて、メンタルヘルス専門家が、患者の理解や実際のトランジションを助ける支援を提供しています。

 その一つが、ボイスセラピストやスピーチセラピストの紹介です。ホルモン療法を受けても、声まで変わるとは限りません。しかし、男性から女性に移行する場合はソフトな話し方、女性から男性に移行する場合は、低い声でゆっくり話す方法を習得することで、理想に近づくことができるからです。

 社会的にも、患者はさまざまな決断を迫られます。例えば、トランスジェンダーであることを隠して就職した人にとって、治療後に職場でカミングアウトするか、それとも職場を変えて新しくスタートするかは重要な問題です。過去には、カミングアウトしたとたんに解雇された人もいました。

 アピチャCHCでは、このような社会的トランジションに関する相談や悩みにも専門家が応じています。出生証明書、パスポート、運転免許証の性別表記を変える事務手続きなども支援しています。

治療費は保険でカバーされますか?

 いくつかの条件はありますが、ニューヨーク州では今年から、低所得者向け公的医療保険制度のメディケイドと、多くの民間保険の適用を受けられるようになりました。それ以前は、ホルモン剤や性別適合手術の費用は患者の全額負担でした。

 ニューヨーク州の決定は、公的医療保険制度を管轄する連邦機関が、トランスジェンダーの人たちの治療に対し、医学的に必要との判断を示したことを受けたものです。今後は、他州でも同様の動きが広がる可能性があります。

 医療について追加すれば、トランスジェンダーの人たちは、体に不調を感じてもすぐに受診せず、悪化するまで待つ傾向があります。本人が希望する名前や性別を無視された、好奇の目で見られたなど、医療機関で不適切な扱いを受けた経験があるからです。

 しかし、心身の包括的健康維持のためには、トランスジェンダーの医療ニーズを理解した、信頼できる主治医との関係作りが非常に大切です。性別適合手術を受けた後も、卵巣や子宮、前立腺などが体内に残っている場合は、それらの定期的検診も必要です。

 アピチャCHCでは、遠方の患者のために医師を紹介することもできます。一人で悩まず、まずは相談してください。

※来週からは、木下磨世さんにピラティスについて伺います。


 

トランスジェンダーの医療ニーズを理解した主治医を見つけ、日ごろから心身の包括的健康に留意することが大切(写真提供:Apicha Community Health Center)
スクリーンショット 2016-10-06 20.50.56

ロバート・ムラヤマ先生
Robert Murayama, MD, MPH

内科医師(Board Certified)、HIV/エイズ治療専門家。HIV/エイズ患者、LGBTコミュニティー向けにプライマリーケア、メンタルヘルスサービス、その他支援を提供するアピチャ・コミュニティー・ヘルスセンター(Apicha Community Health Center=アピチャCHC)の最高医療責任者。アピチャCHCは2011年に民間財団から助成金を獲得し、トランスジェンダー・コミュニティー向けサービスを強化した。

Apicha Community Health Center

TEL
212-334-6029
WEB
https://apicha.org
MAP
400 Broadway (70 Walker St.) (bet. Cortland Alley & Broadway)

バックナンバー

NYジャピオン 1分動画


ただいま配布中発行

巻頭特集
人気が過熱するブルックリン区ウィリアムズバーグ...

   
Back Issue ~9/7/2018
Back Issue 9/14/2018~
利用規約に同意します
おすすめの今週末のイベント