2016/10/07発行 ジャピオン885号掲載記事

心と体のメンテナンス

トランスジェンダーのヘルスケア(前編)

ホルモン療法と外科手術 医療アクセス拡大の兆し

トランスジェンダーの医療ニーズとは?

 まず、トランスジェンダーとは、体の性と心の性が一致しない人たちです。出生時に「割り当てられた性(生まれた体)」が男性でも、自身を女性と認識している人や、生まれた体は女性でも、心は男性ととらえている人、さらには、社会の一般的な男性・女性の、どちらの定義にも当てはまらないと考えている人たちなどです。

 すべてのケースではありませんが、トランスジェンダーの人たちの中には、ホルモン療法や性別適合手術によって、体を心の性に合わせることを望む人がいます。社会から偏見や差別を受け、重度のうつ、不安に陥る可能性が高いことも指摘され、体のケアだけでなく、メンタルケアが非常に重要です。特に思春期になると、体つきが大人へと変化し、体と心の性別に違和感や不一致感を抱き、心理状態が悪化しがちです。メンタルケアについては、後編で説明します。

ホルモン療法について教えて下さい。

 特定のホルモンを定期的に投与し、自認する性に見合った体の特徴の発達を助ける治療です。

 女性として生まれながらも、男性を自認する人は、男性ホルモンのテストステロン投与によって、声が低くなる、体毛が濃くなるなどの効果を期待できます。男性として生まれ、女性を自認する人は、女性ホルモンのエストロゲン投与によって、胸のふくらみ、丸みのある体つき、体毛の変化などが起こる可能性があります。大変興味深いことですが、多くのケースで体の変化に伴い気分も上向き、うつや不安といった精神症状が改善します。

 子供に限られますが、特定のホルモン分泌を阻止する薬によって、思春期を遅らせ、男性的、女性的な体の特徴の成長を一時的に止めることもできます。それによって、思春期の体の変化による苦悩が軽減され、子供は自分の性を見つめ直し、将来どうありたいかについて、より落ち着いた状態で考える時間を持つことができます。

 将来ホルモン療法や性別適合手術を受けると決めたときは、体の変化が起きていない/抑えられているので、より良い結果を期待できます。例えば、男性として生まれた人が女性らしい体つきを手に入れたければ、思春期に肩幅が成長していない方が好ましく、治療も最小限で済みます。また、薬の投与を止めれば、通常の成長が始まることも、思春期を遅らせる治療の利点です。

 なお、子供の治療には親の同意が必要です。

治療はどこでも受けられますか?

 いいえ、医師によっては治療を断ったり、躊躇(ちゅうちょ)したりすることもあります。米食品医薬品局(FDA)が、これらのホルモン剤や薬を、トランスジェンダーの人たちの治療薬として認可していないことが理由の一つです。

 しかし、認可された目的以外に薬を使うことはよくあることで、医師の指示の下、適切に使えば問題はありません。それよりも、医師の側にトランスジェンダーの人たちに対する偏見があり、治療経験が少なく、医療ニーズに対する理解も進んでいないことの方が問題です。

性別適合手術はどこで受けられますか?

 出生時の性別が女性の場合は乳房、子宮、卵巣の切除手術、男性の場合は、陰茎(ペニス)、精巣の切除手術、豊胸手術などがあります。これらの手術には特別な技術が必要です。それらを習得し、経験も豊富な外科医は、全米でもまだ少数です。

 ニューヨーク市でも、性別適合手術のできる外科医は最近までおらず、当院では、希望者には他州の医師を紹介していました。患者が自分で調べ、タイに手術を受けに行くケースもありました。ただ、ホルモン治療もそうですが、手術の場合も状況は変わりつつあり、現在多くの外科医が性別適合手術の訓練を受けています。

 私が勤務するアピチャ・コミュニティー・ヘルスセンター(Apicha Community Health Center)は、トランスジェンダーの人たち向けヘルスケアの強化を数年前に打ち出しました。患者数はすでに500人を超え、医療ニーズの大きさを実感しています。今は患者の対象年齢が18歳以上ですが、近く16歳まで広げ、最終的にはさらに低年齢へと広げたいと考えています。

※後編は、メンタルケアや、治療の保険適用について伺います。


 

トランスジェンダーの人たちの医療ニーズに応えるための、経験豊富な医師やクリニックが次第に増えている(写真提供:Apicha CHC)
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ロバート・ムラヤマ先生
Robert Murayama, MD, MPH

内科医師(Board Certified)、HIV/エイズ治療専門家。HIV/エイズ患者、LGBTコミュニティー向けにプライマリーケア、メンタルヘルスサービス、その他支援を提供するアピチャ・コミュニティー・ヘルスセンター(Apicha Community Health Center=アピチャCHC)の最高医療責任者。アピチャCHCは2011年に民間財団から助成金を獲得し、トランスジェンダー・コミュニティー向けサービスを強化した。

Apicha Community Health Center

TEL
212-334-6029
WEB
https://apicha.org
MAP
400 Broadway (70 Walker St.) (bet. Cortland Alley & Broadway)

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