2016/09/16発行 ジャピオン882号掲載記事

心と体のメンテナンス

がん患者の心のケア(前編)

強い不安と喪失感 新たな自己発見も

がん患者がたどる心の変化とは?

 まず、診断直後は情報が少なく、「分からないことへの不安」に直面する、ストレスの強い時期と言えます。個人差はありますが、多くの人がさまざまな感情や「症状」を経験します。例えば、▽ショック▽実感がわかない▽なぜ自分ががんになったのかという疑問▽死への不安▽最悪のシナリオの想像▽集中力の低下▽激しい感情の起伏▽不眠▽緊張▽うつ感情、感情の麻痺(まひ)▽病気の否定、などです。

 しかし、がんの種類と進行度、治療選択肢、治療にかかる時間、副作用の可能性などが明確になるにつれ、多くの場合心も次第に落ち着き、やるべきことに集中できるようになります。

 治療が始まり、がんに勇敢に立ち向かう中で、「自分がこんなに強いとは思わなかった」、または反対に、「自立して強い人間だと思っていたが、これほど人の優しさや助けをありがたく感じたことはない」など、新しい自分を認識される方も多くおられます。

 

がん治療後はどうですか?

 治療という一つのゴールを達成し、安堵と同時に新たな転換期を迎えます。予想に反して気持ちが沈んだり、不安感が逆に増したりする時期でもあります。

 頻繁に会っていた医師と距離ができ、些細な症状に再発の不安をかきたてられ、体力と気力の回復の遅れに焦る人は少なくありません。家族のケアも、治療中のようには手厚くないので、不満に感じることもあるでしょう。

 突然下されるがん宣告は、厳しい試練の始まりかもしれません。しかし、それまでの人生で培った知恵や力、愛の助けをバネに、多くの患者がそれを見事に乗り越えていかれるのは、一つの特筆すべき現実です。

 

がん患者が抱える不安や喪失とは?

 不安は、患者が最も頻繁に経験する、避けて通れないストレスの一つでしょう。特に診断直前と直後、検査直前と結果を待つ間、治療開始前などは、「待ちの不安」が急増する精神的に厳しい時期です。

 ほかにも、身体機能の低下、治療の副作用、痛みや症状、収入・仕事・人間関係の変化など、患者は日々の生活に密着したさまざまな不安に直面します。これらの不安は、適切な情報や具体的援助を得る、専門家に相談する、家族や友人の理解と援助を得る、公的福祉や民間団体の援助を利用する、などによって軽減し、解決法が見つかる可能性があります。医師やカウンセラー、ソーシャルワーカーなどに早めに相談することをお勧めします。

 また、「再発の不安」と共に生きることは、がん患者特有のチャレンジの一つです。医師が完治を永久に保証することはまずないので、再発の不安と恐怖は避けがたい現実といえます。

 個人差はありますが、深呼吸、エクササイズ、イメージ療法などの緊張緩和法や認知行動療法には、不安を緩和する効果があることが知られています。これらは、不安を引き起こす思考、すなわち「過去に学習した記憶や経験が、未来にまた起きるのではないかという恐れ」から脱し、「現在・今・ここ」のみに気持ちを集中させ、意識的に自分の認織を肯定的に変えるテクニックです。

 不安になる自分を受け入れ、苦しい体験の中に、人間としての成長や新たな可能性など、特別な意味や価値を見出すことができると、不安のとらえ方も変わるかもしれません 。

 「病気のインターネット検索がやめられない」という人も多いのですが、インターネットには不必要、不確実な情報が多く、不安を煽(あお)って逆効果になる可能性があります。がんは一人一人違うので、病気や治療について知りたいときは、主治医が最善の情報源です。インターネット検索をする場合は、病院や研究機関などの信頼できるサイトを使い、必要最低限に抑えましょう。

 患者の多くは、体の一部切除、抗がん剤副作用による脱毛といった目に見える喪失や、仕事、人間関係、体力、将来の夢など、目に見えない喪失も経験します。それらを乗り越えるには、怒りや悲しみの対象をできるだけ具体的に意識化し、喪失を素直に悲しむことを自分に許すことです。

 不安や喪失感から、不眠、ストレス増加、パニック・不安障害などが生じたら、迷わず専門家に相談してください。

※後編は、患者サポートについてお聞きします。

 

マンハッタンにあるNYUランゴン・メディカルセンター傘下の総合がんセンター(中央の白い建物)。がんの検査や治療法は日々進化している(写真提供:NYU Langone Medical Center)
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三宅亜紀子さん
Akiko Miyake, LCSW, OSW-C

ニューヨーク州認定臨床ソーシャルワーカー(LCSW)、オンコロジー協会認定オンコロジー・ソーシャルワーカー(OSW-C)。ニューヨーク大学(NYU)大学院ソーシャルワーク修士課程卒業。非営利団体キャンサーケア(CancerCare)、ベスイスラエル総合がんセンターを経て、現在NYUランゴン・メディカルセンター傘下の総合がんセンター勤務、当センター患者向けのカウンセリングや各種サポート、サービスに従事。

NYU Langone Medical Center

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