2016/09/09発行 ジャピオン881号掲載記事

心と体のメンテナンス

子供から高齢者までの音楽療法(後編)

音楽の力で目標を達成 楽器初心者でも大丈夫

音楽を通して「会話」や「交流」を図るとは?

 音楽療法には、さまざまなアプローチがあります。ここでは、言葉をほとんど話すことのできない自閉症児のセッションを例に、音楽療法士とクライアントが即興で音を出しながら、一緒に「音楽する」アプローチについて、簡単に説明します。これは、「今、このとき」のクライアントをありのままに受け入れ、音楽療法士とクライアントが音で「つながる」ために、有効な方法の一つです。

 自閉症児には、周囲とコミュニケーションを取りにくい、変化への対応が難しい、言語能力の発達が遅れている――などの特徴があります。セッションでも、最初は音楽療法士と目を合わせられず、楽器で音を出して遊ぼうと誘っても、やりたがらない子供もいます。

 そこで、子供の動きに合わせて音をつけたり、子供の好きな楽曲を使って、一緒に音を出すことを促したりすることにより、まずは子供のありのままを「音で」受け止めます。子供が泣いている場合は、その泣き声に合わせます。ありのままを受け入れるというのは、音楽療法士とクライアントの信頼関係を作る上でとても大切です。

 音楽療法士は、子供がどんな音やフレーズに、どのように反応しているかを細かく観察していきます。そして、子供が出すメロディーやリズム、体の動きなどの変化に、即興で音を出しながら反応すると、今度はそれに、子供がさらに反応するというように、「会話」が始まります。音の流れを汲みながら会話を重ねることで、音楽療法士と子供が一緒に音楽を作ります。

 セッションの回数を重ね、信頼関係が強くなるにつれ、お互いの音楽を通してのやりとりや、表現のレベルに変化が現れます。こうして、音楽療法士とクライアントとの間に生まれた「会話」を起点に、そこからさらに進んでいくわけです。

 

高齢者のグループ・セッションについて、簡単に教えてください。

 私が勤務する複合高齢者施設イザベラハウスでのセッションについてお話ししましょう。

 参加者には認知症患者が多く、その場合、集中力の持続や、記憶力の維持などが通常はゴール(目標)とされます。しかし、イザベラハウス入居者のように、自分の家を出てナーシングホーム(高齢者対象の福祉施設)で暮らしていると、新しい環境や人間関係に適応するのも大変ですし、孤独や不安などから、気分が落ち込んでも不思議ではありません。

 こういう人たちにとって、グループに参加して、みんなで何かをやる、一緒に何かを作り、その感動を分かち合うということは、意味のあることです。そのため、セッションではまず、精神的に安心できるグループの雰囲気作りを考えます。

 イザベラハウスでは、ドラミングのグループ(ドラムや太鼓など、主に打楽器を使うサークル)を作っており、みんなで打楽器をたたいて音を出し、ほかの人の音を聞きながら、自分も音で加わるということをしています。参加者が互いに音を聞き合い、その場で音楽を作り上げるので、一回一回どういう音楽になるかは、やってみなければ分かりません。

 「(ドラムを)こういう風にたたく」というお手本はありません。私からみなさんには、「周りの音をよく聞いて、自分の思うようにやってください」とだけお話しします。みんなで音を出せば、一人のときより音がパワフルになり、それだけ楽しくもあります。大きな声を出してもらったりもするので、気分転換やストレス発散になり、躍動感や達成感を得られるという人も多いです。

 

ドラミング・グループ参加者の感想は?

 「元気が出た」「また参加したい」「やったー!(I did it!)という感じがした」などです。また、セッションの初めは硬かった表情が、次第にやわらかくなる人が多いです。

 認知症患者は、病気が進むと表情がなくなることがありますが、一緒に歌い、楽器で音を出すうちに、自然に笑顔が出て、楽しそうに声を出す人もいます。あるグループで童謡を歌ったら、いつも黙っていた人が突然一緒に歌い始めたこともありました。

 このように、音楽には人の心に入り込み、活力を与えたり、なぐさめ、励ましたりする力があるのです。

※次回から、三宅亜紀子さんにがん患者の心のケアについて伺います。

 

イザベラハウスでの高齢者グループ・セッションの様子。楽器初心者が多いが、表情は真剣かつ明るく、参加者同士声をかけ合い笑い声も聞こえる
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吉村美智代さん
Michiyo Yoshimura, MT-BC LCAT

音楽療法士(Board Certified by CBMT=Certification Board for Music Therapists)。モロイ大学音楽学部音楽療法学科卒業、ニューヨーク大学(NYU)大学院音楽療法学科修士課程修了。NYUノードフ・ロビンズ(NR)音楽療法センターで主に自閉症児の臨床に従事。現在は複合高齢者施設イザベラハウス勤務。NRレベルII認定音楽療法士、ニューヨーク州認定クリエイティブ・アートセラピスト(LCAT)。

吉村さんのイザベラハウス直通

TEL
212-342-9471

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