2016/09/02発行 ジャピオン880号掲載記事

心と体のメンテナンス

子供から高齢者までの音楽療法(前編)

音楽の力で目標を達成 楽器初心者でも大丈夫

音楽療法について簡単に説明してください。

 音楽の持つ力を使い、身体的・心理的健康を回復、維持または向上させる療法の一つです。クライアントにとって必要なこと(ニーズ)を明確にした上で、その達成に取り組みます。

 音楽療法の対象は子供から高齢者まで幅広く、自閉症児、ダウン症児、認知症患者、脳梗塞の後遺症で体に麻痺(まひ)が残った人、精神障害者、薬物依存者、HIV/エイズ患者など、さまざまな病気や症状を抱える人たちへの療法として使われています。

 そのほか、医学的に診断された病名や症状がなくても、例えば心身の緊張をほぐすなど、セルフケアを目的に用いられることもあります。

 ちなみに近代の音楽療法は、第二次世界大戦中、アメリカで帰還兵の治療の一環として音楽を使ったことから広がり始めたと言われています。医師の管理の下、兵士のリハビリや、兵士を元気づけるために、音楽家がボランティアとして病院スタッフと一緒に働いたそうです。

 

クライアントのニーズとは、具体的にどんなことですか?

 ニーズはクライアントによって異なり、一つとは限りません。
 例えば認知症患者の場合、集中力の持続や、記憶力の維持、回復が挙げられます。簡単な短いフレーズ(小楽節)を覚えたり、子供のころや若いころよく聴いた歌やメロディーを思い出して歌う・楽器で演奏したりといったことは、記憶力を刺激し、呼び戻すことに役立ちます。

 また、楽器で音を出す・歌うこと自体が、大抵の人にとっては楽しいの時間ほどの音楽療法のセッション中は集中できるという人が多いです。

 社会性の回復も、高齢者の多くでみられるニーズです。社会から孤立しがちな高齢者にとって、他人と一緒に「音を出す」ことで自分の存在意義を確認し、音を通して周りと融合しながら何かを一緒に作るということは、非常に意味があります。

 病気や事故で後遺症を負った人のリハビリとしても、音楽療法は使われています。リズムに合わせた歩行運動や、メロディーとリズムに乗せた発語能力の回復などに用いられます。

 認知症患者もそうですが、体に麻痺や障害があると、一人ではできないことが増えてきます。自尊心が低下し、落ち込むことも多くなります。そんなとき、音楽を通して何かをやる・やり遂げることは、たとえそれが健常者には簡単なことであったとしても、心身にハンデのある人にとっては、大きな達成感や自信につながります。充実感や楽しさを体験することによって、感情の躍動や生きがいを感じられることがあるからです。

 

子供の場合はどうですか?

 例えば自閉症児は、周囲とコミュニケーション(社会的交流)を取りにくい、融通がきかず変化への対応が難しい、言語能力の発達が遅れている――などの特徴がみられます。そのため、まずは一緒に音楽をやる中で、子供と音楽療法士との間に信頼関係を築き、子供に音楽を通しての自己表現を促し、その中で「会話」や「交流」ができるように取り組みます。

 子供の表現に、音楽療法士が音を出して反応することで、そこに「やり取り」が生まれます。それを続けていくことによって、子供は自分が家族以外の他人から受け入れられる存在であることを知り、自信を持てるようになります。

 個人差はありますが、いったん音楽療法士とコミュニケーションが取れると、日常生活でも徐々に変化が現れることがあります。たとえセッションの場以外で明らかな変化がなくても、音楽療法士とやり取りする中で自信を持てたり、生き生きと楽しい時間を他人と共有できたりすることは、本人にも家族にとっても大事なことです。

 

音楽療法を受けるには、楽器が使えないといけませんか?

 いいえ、そんなことはありません。音楽療法のセッションは、楽器に触れたことがない、楽譜が読めないという人も、安心して受けられます。セッションでは、大小さまざまな楽器を用意していますが、特にドラムなどの打楽器は、他の楽器に比べて抵抗なく使える人が多いようです。

※次回は、セッションの具体的な進め方についてお聞きします。

 

写真は各種ドラム。他に、木琴、鉄琴、チャイムなど、音楽療法では大小さまざまな楽器を使う
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吉村美智代さん
Michiyo Yoshimura, MT-BC LCAT

音楽療法士(Board Certified by CBMT=Certification Board for Music Therapists)。モロイ大学音楽学部音楽療法学科卒業、ニューヨーク大学(NYU)大学院音楽療法学科修士課程修了。NYUノードフ・ロビンズ(NR)音楽療法センターで主に自閉症児の臨床に従事。現在は複合高齢者施設イザベラハウス勤務。NRレベルII認定音楽療法士、ニューヨーク州認定クリエイティブ・アートセラピスト(LCAT)。

吉村さんのイザベラハウス直通

TEL
212-342-9471

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