2016/05/27発行 ジャピオン866号掲載記事
軟部組織の損傷と痛みの治療(前編)
患者の症状表現を重視 早期回復と復帰が目標
軟部組織の損傷を回復させる治療について教えて下さい。
軟部組織とは、筋肉、腱(筋肉と骨をつなぐ組織)、靭帯(骨と骨をつなぎ、関節を安定させる組織)、筋膜などです。そのうち筋膜は、全身の筋肉や内臓、神経、血管を個々に覆っています。近年、慢性痛の多くに、筋膜と、それに起因する軟部組織の損傷が関係していることが分かり、筋膜の働きについての研究が進んでいます。
MFDTは米国で開発された比較的新しい治療技術であり、専門課程を修了した認定施術者は世界でもまだ50人程度です。しかし、その有効性は徐々に知られつつあり、五輪代表選手やプロスポーツ選手など、けがや痛みを早く確実に治したいという人たちの間で、利用が増えています。
軟部組織の損傷の原因と、痛みとの関係は?
例えば、関節の動きが悪くなると、骨とつながった筋肉の付け根部分、いわゆる腱がこすれて、炎症が生じます。こうして繊維レベルでの傷が増え、やがて自然治癒が難しくなると、損傷した組織が蓄積し、痛みが引き起こされます。
また、肩凝りは軟部組織が硬くなった状態で、骨格のゆがみによって、肩付近の筋肉に過度の負担が続けてかかることが原因の一つです。
MFDTによる治療では、このような軟部組織の損傷の原因を、手技によって解消します。それによって、筋肉や筋膜、靭帯、腱が柔軟性と本来の強さを取り戻し、患部への血液やリンパ液の循環も改善することで、組織が修復されやすくなります。必要な栄養や酸素が行き届き、老廃物や毒素の体外排出も進む結果、運動機能の向上や、組織の老化を遅らせることも期待できます。
症状の原因はどのように診断しますか?
▽ カイロプラクティック検査=背骨のゆがみや関節の可動域、筋肉・靭帯・腱などの軟部組織の状態と炎症の有無、弾力性などを調べる。
▽ 整形外科的検査=症状の原因を追究するための医学的検査。
▽ 神経学的検査=反射や筋肉の強弱とバランスなどを調べる。
必要な場合は、レントゲン検査で骨や椎間板の状態を調べたり、磁気共鳴画像(MRI)検査によって軟部組織の損傷の有無や重症度を調べたりすることもあります。
これらに加えて認定MFDTカイロプラクターは、患者の言葉による症状の表現方法にしっかりと耳を傾け、症状を示すしぐさや身振り手振り(ボディーランゲージ)を分析する能力を備えています。
例えば、同じ肩の痛みでも、「刺すような痛み」「うずくような感じ」「触るとひりひりする」など、患者によって表現方法はさまざまです。また、患者に痛い場所に自分で手を当ててもらうと、肩の関節をピンポイントで指さす人もいれば、肩と上腕を手のひらでさする人、手のひらをカップ(杯)の形にして肩に置く人もいます。
このような表現の違いは、損傷した組織、つまり、症状の原因の違いを表しています。レントゲンやMRI検査などの画像診断の結果が大事なのはもちろんですが、それらだけに頼り過ぎないことも、実際の治療の中ではとても重要なことなのです。
治療法は、症状の原因によって変わります。患者の話し方やボディーランゲージは、原因を正確に診断するための重要なカギであり、認定MFDTカイロプラクターは、それらを見極める訓練を受けています。
※後編は、原因や症状別治療法についてです。


石谷三佳先生Mika Ishitani, DC
カイロプラクター(Doctor of Chiropractic)。パーマー・カイロプラクティック大学院卒業。ハーバード大学医学部専門課程修了。子供から大人の痛みやけが、事故の後遺症の治療、健康増進、妊婦の産前・産後ケア、乳幼児ケアなど。ニュージャージー州バーゲン群の地元誌「(201)マガジン」から「2015年トップ・カイロプラクター」に選出された。認定MFDT(MyoFascial Disruption Techni- que)カイロプラクター。
Ishitani Chiropractic