2016/02/19発行 ジャピオン852号掲載記事

心と体のメンテナンス

甲状腺ホルモンの異常(後編)

合併症が怖いバセドー病 妊娠前の検査も忘れずに

バセドー病とはどういう病気ですか?

 甲状腺ホルモンが過剰に分泌される甲状腺機能亢進(こうしん)症(以下、亢進症)を起こす代表的な病気です。甲状腺機能低下症(以下、低下症)を起こす橋本病(前編参照)と同じように、バセドー病も自己免疫疾患で遺伝が一番のリスク因子です。原因は不明ですが、刺激抗体による甲状腺の異常な機能亢進が起こります。

 亢進症は新陳代謝が活発になる結果、一見して元気そうに見えますが、常にエネルギーを消費しているので、次のような症状が現れ、日常生活に支障を来します。

▽ 動悸(どうき)・息切れ
▽ 疲れやすい
▽ 手足や体の震え
▽ 暑がり・汗かきになる
▽ 食欲はあるのに太らない・痩せる
▽ 下痢
▽ 筋肉の衰え
▽ 理由もないのにイライラする、など。

 「普通の会話の最中にイライラしてかみついてくる」など、患者の配偶者が様子の違いに気付いて受診した結果、甲状腺異常が分かったケースもありました。症状には個人差があり、衰弱して寝込む人がいれば、自覚症状があまりない人もいます。

 甲状腺の腫れも、橋本病よりもバセドー病で見られることの方が多く、一見して分かるほど首が腫れることもあります。

 眼球突出も症状の一つです。バセドー病に特有の甲状腺を刺激する抗体が、眼球の後ろにある筋肉を肥大させ、眼球を前方に押し出すことで起こります。「バセドー病=目の出る病気」と思われがちですが、実際にこの症状が出る人は少数です。

 

バセドー病はどのように治療しますか?

 治療の基本は、甲状腺ホルモンの過剰産生を正常に戻すことです。甲状腺の活性を抑える抗甲状腺薬の内服、甲状腺細胞の組織を壊し、その機能を低下させる放射性ヨウ素の内服、甲状腺を外科的に切除する手術の、主に三つの治療選択肢の中から、症状や妊娠の希望、年齢を考慮した上で、根治を期待できる方法を検討します。

 症状が軽ければ、抗甲状腺薬服用を1~2年続けた後に根治し、薬が不要になる人も少なくありません。しかし、抗甲状腺薬は肝機能異常や白血球減少などの重篤な副作用が起こることがあります。治療中は定期的に血液検査を受け、異常がないかをモニターする必要があります。

 手術の場合、昔は甲状腺の一部を残すこともありましたが、亢進症再発や、適切なレベルにならない可能性などを考慮し、現在は全摘が勧められます。全摘後は甲状腺に過敏に反応していた刺激抗体も徐々に減少し、眼球突出や、妊婦の場合胎児への悪影響を減らす効果もあります。術後は低下症になるので、甲状腺ホルモンを薬で補います。薬の服用に不安を感じる人もいますが、甲状腺ホルモン薬は大変安定しており、医師の指示に従い適量を守っている限り副作用の心配はありません。

 

自覚症状がなくても治療は必要ですか?

 必要です。バセドー病を治療せず放置すると、重篤な合併症を引き起こす可能性があります。甲状腺ホルモンの分泌が過剰な間は、心臓も刺激を受けています。これが長期間続くと、不整脈や心不全を起こす恐れがあります。また、新陳代謝が高くなると、骨の作られる速度が壊れる速度に追い付かなくなり、長い目でみて骨密度が減少し、骨粗しょう症になりやすくなります。

 ほかにも、まれですがいくつかの合併症リスクがあります。バセドー病は、症状や合併症が急に悪化することもあるので、速やかに専門医に相談してください。

 

妊婦が低下症、亢進症を指摘されたら?

 妊娠中の甲状腺ホルモンの異常は、胎児の成長を妨げ、早産や流産の可能性を高めると言われます。子供の知能指数(IQ)への悪影響も指摘されています。専門医の下で直ちに治療を開始し、ホルモンを正常に保つことが大事です。

 妊娠中に異常が分かっても、適切な治療によって問題なく出産されるケースがほとんどです。しかし、後で心配するよりは、妊娠前に異常がないかを調べ、治療しておく方が安心です。

 甲状腺ホルモンの異常は、治療によってコントロールが可能です。症状が軽いうちに、適切な治療を心掛けてください。

※来週は鍼灸師のマイケル・チョイ先生に、痛みと美肌治療について伺います。

 

アメリカでよく処方される甲状腺ホルモン剤の一つ。妊婦で低下症が見つかった場合、血液検査で甲状腺ホルモンの不足度を確認しながら医師が用量を調整し、不足分を補充する。
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柳澤貴裕先生
Robert T. Yanagisawa, MD

内分泌内科専門医師(Board Certified)。マウントサイナイ・アイカーン医科大学教授、内分泌科研修プログラムディレクター。糖尿病や甲状腺疾患が専門。東京女子医科大学招待教授、東北大学臨床教授、米国日本人医師会副会長を兼務し、日米の医療教育向上に尽力。2011年の東日本大震災以降は日米の医療関係者と協力し、被災地の心のケア支援を続けている。

Mount Sinai Hospital Endocrine Associates

TEL
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