2016/02/12発行 ジャピオン851号掲載記事

心と体のメンテナンス

甲状腺ホルモンの異常(前編)

甲状腺ホルモン不足 最大の原因は橋本病

甲状腺とはどんな臓器ですか?

 体の新陳代謝を司るホルモンを作る臓器です。チョウが羽を広げたような形をしており、首の前側、喉仏のすぐ下に、気管を抱くようについています。

 体内には、血液中の甲状腺ホルモンの量を一定の範囲に保つ仕組みがあります。まず、脳の下垂体によって血液中の甲状腺ホルモンの変化を敏感にキャッチし、正常値以下に下がった場合は甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌を増やして甲状腺を刺激し、甲状腺ホルモンの分泌を促します。

 逆に甲状腺ホルモンが増え過ぎた場合は、TSHの分泌を抑え、甲状腺ホルモンの量を減らします。甲状腺は、室温を自動調整するサーモスタットのようなものです。普段はその存在に気付きさえしませんが、いったん異常が起きると、体に影響が現れます。

 

甲状腺ホルモンの異常とは?

 甲状腺の病気には、甲状腺の機能の異常と、形の異常という二つの特徴があり、どちらか一方だけという人と、両方が現れる人がいます。そのうち、甲状腺機能に異常が生じ、甲状腺ホルモン分泌が過剰になった状態を甲状腺機能亢進症(以下、亢進症)、不足した状態を甲状腺機能低下症(以下、低下症)といいます。

 甲状腺ホルモン分泌が不足すると、全身の新陳代謝が低下し、▽寒がり▽疲れやすい▽体のむくみ▽便秘▽皮膚の乾燥、脱毛――といった症状が現れます。逆に亢進症になると、新陳代謝が高くなり、▽暑がり、汗かき▽動悸(安静時に心臓がどきどきする)▽手の震え▽体重減少▽イライラ▽下痢――などの症状が現れます。

 これらは必ずしも病気とはいえない症状であり、自覚症状がない人もいます。よくあるのは、「最近疲れやすい」「首もとが腫れてきた」という理由で内科を受診し、血液検査で異常が見つかるケースです。

 ある調査によると、日本人の発症率は低下症が5%、亢進症が1%と、甲状腺ホルモン異常は決して珍しくありません。特に女性に多く、患者の男女比率は低下症が女性10人に対し男性1人、亢進症は女性4人に対し男性1人です。発症年齢は、低下症を起こす代表的疾患の橋本病の場合で20~40代、亢進症を起こすバセドー病は20~30代が多いです。 

 

橋本病とは、どういう病気ですか?

 甲状腺に慢性的に炎症が起きる自己免疫疾患の一つです。自分の免疫系が甲状腺を攻撃する結果、甲状腺組織が次第に破壊され、ホルモン分泌が徐々に低下します。

 橋本病の一番のリスク因子は遺伝です。しかし、家族歴があっても、必ずしも発症するわけではありません。また、甲状腺疾患一般に共通することですが、生活習慣や食生活、肥満と、発症との間に関係はないようです。ちなみに、橋本病は低下症の最大要因ですが、ほかにも手術や腫瘍、妊娠、特定の薬などによっても低下症は起こります。

 橋本病の主な症状は、甲状腺のはれ、低下症による症状(むくみ、皮膚の乾燥、寒がりになる、食欲がないのに体重が増える、など)です。妊婦の場合を除き、症状が軽ければ、直ちに治療する必要はありません。しかし、甲状腺ホルモン不足が長期間続くと、甲状腺の肥大が進むほか、心臓の働きの悪化、コレステロール値の上昇など、新陳代謝の低下による影響がさまざまな臓器に出てきます。

 糖尿病の人は、血糖値管理が難しくなることもあります。そのため、治療を先延ばしして様子をみる場合も、甲状腺や各種機能を定期的に調べることが大事です。

 低下症の症状があれば、不足した甲状腺ホルモンを薬で補います。医師の指示に従い適量を守れば、何十年服用しても副作用の心配はありません。

 いったん壊れた甲状腺組織は元に戻らないため、低下症は完治しないことがほとんどです。しかし、糖尿病や高血圧などと比べ、薬によって症状を管理しやすい のも低下症の特徴です。また、何らかの事情で薬の服用が遅れても、甲状腺ホルモン薬は大変安定しており、数時間や数日程度なら普通は影響がないことも、患者にとっては安心材料の一つです。甲状腺機能の異常を指摘されたら、まずは慌てずに専門医で適切な診断を受けましょう。

※後編は、バセドー病と妊婦のケースについてです。

 

甲状腺疾患の家族歴がある人は、定期的に血液検査で甲状腺機能を調べる方が安心。写真は甲状腺の形や大きさ、しこりを調べる超音波検査の様子(写真は実際の患者ではありません)
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柳澤貴裕先生
Robert T. Yanagisawa, MD

内分泌内科専門医師(Board Certified)。マウントサイナイ・アイカーン医科大学教授、内分泌科研修プログラムディレクター。糖尿病や甲状腺疾患が専門。東京女子医科大学招待教授、東北大学臨床教授、米国日本人医師会副会長を兼務し、日米の医療教育向上に尽力。2011年の東日本大震災以降は日米の医療関係者と協力し、被災地の心のケア支援を続けている。

Mount Sinai Hospital Endocrine Associates

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