2016/02/05発行 ジャピオン850号掲載記事

心と体のメンテナンス

子供と大人のADHD(後編)

適切な治療で症状管理 生活面見直しと薬物で

注意欠陥多動性障害(ADHD=Atten- tionDeficitHyperactivity Disorder)の治療の目標は?

 ほかの精神疾患の場合と同じように、ADHDも病気そのものを治すことはできませんが、適切な治療によって症状を抑えることは可能です。大きな問題を回避することで、学校や職場、家庭で充実した生活を目指します。

 ADHDの主な症状は、集中力が続かない、物事を順序だてて行うのが難しい、落ち着きがないなどです。患者の性格や、保護者のしつけの問題と誤解されることも多いのですが、治療が遅れると脳の中の変化が進み、症状が悪化することが分かっています。また、叱られ続けて育った子供は、自尊心を失い、非行に走ったり、うつなどのほかの病気を併発する可能性があります。それらを防ぐためにも、早期診断と治療が大事です。

 

ADHDはどのように治療しますか?

 ADHDは子供の最も一般的な発達障害の一つですが、診断を受けないまま成長し、大人になってから診断される人も最近は増えています。

 子供の場合、年齢にもよりますが、まずは行動療法を試します。行動療法とは、やってはいけない行動に対し罰を与え、望ましい行動に対しほうびを与えることにより、子供の行動を変える治療法です。問題行動を減らす効果があり、診断後に直ちに開始します。

 米疾病対策センター(CDC)は、子供の行動療法に役立つ例として以下を挙げています。▽日課を作り、それに従う▽学校のかばん、洋服、玩具を毎日同じ場所に片付ける▽宿題をしているときはテレビやパソコンの電源を切り、集中の妨げになる要因を除く、など。また保護者に対しては、▽子供への指示を短く簡潔に出す▽現実的な目標を立て、子供の努力に対しほうびを与える▽子供の得意なことや才能を見つけて褒める、などを例示しています。

 ほかにも、子供の症状や重篤度によって、さまざまな場面を想定した対処法や、気持ちを落ち着かせる呼吸法を取り入れ、子供が集中しやすい環境作りと、生活面の見直しにも取り組みます。これらを子供が実践できるように、保護者も子供と一緒に学び、日頃から子供に声掛けをします。

 また学校からは、試験時間を長めに取る、授業中に専用コーチをつけるなどの支援を受けられます。

 以上で十分な効果がない場合は、薬物療法を組み合わせます。薬は、中枢神経刺激薬(ブランド名「リタリン」「コンサータ」「アデロール」など)と、それ以外(同「ストラテラ」など)に大別されます。これらは、微妙にアプローチが異なりますが、いずれも脳内の神経伝達物質であるノルエピネフリン(ノルアドレナリン)やドーパミンを増やす働きがあり、学校の授業など、落ち着いて一つのことに集中できるようになります。

 中でも精神活動を高める中枢神経刺激薬は、何十年も安全に使われてきた効果の高い薬であり、子供の70~80%で症状を抑えられると言われます。

 ただし、食欲不振や不眠などの副作用があります。成長への影響が懸念されるため、専門家の指示の下、できるだけ少量を適切に使います。

 大人の場合も、こうした薬はよく効きます。同時に大人は年齢を重ねるにつれ、どういう場面で、どのように行動すれば問題を回避できるかが経験から分かってきます。用事を先送りにしてしまいがちな人は、作業を小分けにして優先順位を書き出し、簡単なものから一つずつ仕上げる、忘れ物が多い人は、玄関前に必要な物を置く・必要な物の一覧を目立つ場所に張る――などです。 

 

薬を飲み始めたら一生必要ですか?

 薬の効果は一時的であり、服用している間だけ症状を抑えることができます。ただし、一生飲み続ける必要はなく、生活面の見直しや工夫を徹底することで症状をコントロールし、30代半ばから40代にもなると、薬は不要という人も多いです。仕事が忙しいときや、学生なら試験前など、ストレスが大きく、集中して仕事や勉強をしたいときだけ薬を服用する人もいます。

 このように、ADHDには有効な治療法があります。早めの治療を心掛けましょう。

※来週から2回は、柳澤貴裕先生に甲状腺疾患について伺います。

 

ADHDは薬がよく効くことで知られる。生活面の見直し・工夫などと組み合わせ、症状をコントロールする。写真は治療薬「ストラテラ(一般名アトモキセチン)」を製造・販売するイーライリリーの研究室(写真提供: Eli Lilly and Company)
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リサ・M・パトリック先生
Lisa M. Patrick, MD

精神科医師(Board certified)。ニューヨーク大学(NYU)で依存症フェローシップ、精神科レジデンシー・プログラム修了。NYU臨床准教授。不安症、パニック障害、うつ、躁うつ、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、統合失調症など成人の精神疾患や、ギャンブル・薬物・アルコール・インターネット・買い物などの各種依存症治療が専門。日本育ちで日本語堪能。

TEL
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