2015/11/27発行 ジャピオン841号掲載記事

心と体のメンテナンス

DV被害者支援プログラム(前編)

DV被害からの回復 望まれる包括的支援

ドメスティックバイオレンス(DV)によって、被害者はどのような影響を受けますか?

 一言でDVと言っても、加害者による虐待行為や、それによって被害者が心身に受ける影響はさまざまです。

 DVとは、ある人間が強い支配力を持ち、別の人間を操ろうとする行為を指します。支配力を持つ人間、つまり加害者は、被害者と何らかの親密な関係にあり、本来なら被害者が信頼できるべき人間です。日本語でDVを家庭内暴力と訳すこともあるように、加害者は被害者の配偶者や親、祖父母、義父母、子供などの家族かもしれないし、恋人や知人、教師かもしれません。

 DV行為は、身体的暴力だと思われがちですが、他にも精神的虐待、言葉による虐待、性的虐待、経済的虐待など多岐にわたります。最近増えているのは、配偶者や恋人にセックスを求めておきながら直前に拒絶し、相手に屈辱を与える行為です。フェイスブックやツイッターのアカウントをハッキングして個人情報を盗む、裸の写真や偽情報をインターネット上に流布するなど、技術を悪用して相手を侮辱する行為も虐待です。

 そして、このようなDVによる影響は、周囲からは分からないことも多いのです。例えば、暴力によってできた傷やあざも、洋服で隠れる部分は他人からは見えません。羞恥心や加害者に対する恐怖から、被害者自身もDVの事実を隠そうとする傾向があります。

 問題を一人で抱え、家庭や職場、学校などで普通に振る舞うことに多大なエネルギーを使い、疲れ果てた被害者は、自分の健康を気遣う心の余裕がありません。心の痛みは、うつ症状、気分のむら、不安などの精神症状のほか、睡眠障害、消化器系の問題、慢性痛といった体の症状として現れます。やがて心身が音を上げると、さらに深刻な問題や病気につながります。

 

被害者のトラウマからの回復や社会復帰を支援するサービスは?

 DV被害者は、物理的・精神的に多くの支援を必要とします。私が勤務するニューヨーク・アジア人女性センター(NYAWC)は、子供から高齢者までを対象に、24時間の電話相談、カウンセリング、法律相談・裁判支援、公的医療・福祉扶助申請支援、身体的安全確保のための避難用シェルターの情報提供と手配、ウェルネス関連プログラムなどを無償提供しています。カウンセリングを含む各種サービスは、日本語を含むアジア18言語で受けられます。

 

 

ウェルネス・プログラムとは何ですか?

 心身が癒えるために必要な時間とスペースを作ることを目的に、ヨガ、気功、耳の鍼・磁気ビーズ施術、アートセラピーなどで構成されるNYAWC独自のプログラムです。

 DV被害者は、心身の状態や変化を汲み取る感覚が、暴力の長期化によってまひしていることがあります。プログラムを通じ、心と体のつながりを強化することで、例えばパニック発作の兆候に気付き、未然に防ぐといったことが可能になります。ほかにもストレス緩和、思考が前向きになるなどの効果があります。

 

被害者は女性だけですか?

 いいえ、女性だけではありません。統計的に女性の方が多いのですが、男性も被害を受けています(29ページDV連載コラム「沈黙を破る」参照)。男性は女性よりもDVや虐待の事実を隠す傾向が強く、被害が過小評価されている可能性もあります。ある調査によると、アメリカでは18歳未満の男子の6人に1人が性的虐待の被害者とみられています。

 加害者も男性だけとは限りません。統計的に加害者のほとんどは男性ですが、女性が男性、または女性に暴力を振るう・虐待するケースもあります。加害者は常に男性で、女性は他人を傷つけないという社会の誤った認識は、被害者に沈黙を強いることにもなりかねません。

 暴力や各種虐待から逃れることができず、恐怖や屈辱の中で暮らす被害者はたくさんいます。被害者自身がDVや虐待の事実に気付いていないこともあります。被害者自身に非はないこと、沈黙は心身を傷つけること、被害の事実を他人に打ち明け支援を求めてもいいのだということを、ぜひ知っていただきたいと思います。

※後編はDV被害者向けウェルネス・プログラムの具体的な内容を伺います。

 

DV被害者向けアートセラピーの一環として、扇子の上に絵を描いたりする。手を使って行う創作作業は、心の平穏や安心感、癒やしにつながるという(写真提供: NYAWC)
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アディティ・バタチャリアさん
Aditi Bhattacharya, LMSW

ニューヨーク・アジア人女性センター(NYAWC)のカウンセラー兼プログラムマネジャー。性的暴力被害者支援プログラム責任者であり、サバイバー向け包括的ウェルネスサービス開発や、啓蒙に注力。ニューヨーク市立大学ハンター校でソーシャルワーク修士号(MSW)取得。1982年設立のNYAWCは、主にアジア人のDV、性的暴力、ヒューマン・トラフィッキング被害者とその子供を支援。
New York Asian Women’s Center
32 Broadway, 10th Fl.
(bet. Exchange Pl. & Morris St.)
24時間ホットライン:888-888-7702
www.nyawc.org
※日本語希望の場合「Japanese please」と伝える

New York Asian Women’s Center

TEL
888-888-7702
WEB
http://www.nyawc.org
MAP
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