2019/04/05発行 ジャピオン1012号掲載記事

中村武彦のプロスポーツから見る経営学

第37回 スター選手引退の舞台裏


イチロー選手引退
チームの対応とは

日米にまたがり、まさにスーパースターといわれるイチロー選手が引退を発表しました。彼がどれほどすごいのかという分析などは専門家にお任せするとして、私はよく「このようなスーパースターは引退後どうするのだろうか?」という余計なお世話に、想いをはせることが多いです。

ちまたではよく「セカンドキャリア」という言葉を耳にしますが、これはアメリカのスポーツ界ではあまり聞かないフレーズで、恐らく日本で多く使われるのではないかと思います。個人的にはセカンドキャリアも何もなく、「ワンライフ」だというのが持論です。もしセカンドキャリアというようなくくりを設けるとしたら、私なんて「フィフスキャリア」などになってしまいます。

イチロー選手が引退後に進む道に関する議論や記事はあちこちで目にするので、今回は逆にスポーツビジネスの観点から、このようなスター選手が引退をする際、チームではどのような動きがあるものなのかを、少しお話ししたいと思います。

チームに多大に貢献
現役後の付き合い方

まず最初に考えることとしては、チームに貢献をしてくれた大切な選手だけに、引退試合やセレモニーをどうするのか、ということです。本人の意向が最も大事ですが、他にも引退試合などに誰を呼ぶのかを検討するのも、大掛かりで大変な仕事です。

また、これも選手の意向が優先されますが、引退後もチームとどのように関わってもらえるのかというチーム側の発案も大切です。例えば、鹿島アントラーズなどはこの点をとても大切にしており、他のチームに移籍をしていた選手でも、引退後には「ファミリー」として鹿島に帰ってくることで有名です。同チーム所属で元日本代表であった中田浩二氏は、現在はチームのクラブ・リレーションズ・オフィサー(CRO)に就任しています。

選手の価値とは何か
検討はデリケートに

もう少し生々しい話をすると、引退するということは年齢的にも上の部類に入っていることを意味し、戦力的に第一線から離れ始めている場合もあります。このとき現場は、チームの顔であり功労者である選手のプライドや立場も鑑みて采配を取りつつ、若手を育てる方法を考えるという、ややこしい側面を迎えます。

かつて、そのような立場のスター選手の年俸の高さが負担になっているとして、とあるチームが選手の放出を考えていたところ、外部にその情報が漏れ、本人およびファンから批判を浴びた事件もありました。本人とファンの心情は理解できますが、同時にチームの強化を預かる人の立場も分かるだけに、非常にデリケートな問題です。

試合に出るだけが選手の価値ではありません。普通、それだけのスター選手なのであれば、若手選手やチームの見本となる姿勢や心構え、チームでの存在感など、無形財産もたくさんもっている、プロ中のプロであるはずです。

あるいは、その選手は存在するだけでマーケティング価値があるという可能性も、大いにあります。スポーツビジネス的にいえば、チームはX円を支払ったら、それを上回るリターンがあればよい、と考えるのです。

チーム側は、これだけに丁寧に、総合的に考えて動かなくてはなりません。選手の失礼になるようなことは必ず回避します。

予算とチームの補強
先読みで動く運営陣

選手がいなくなった、その先のことまで考えてみましょう。スター選手が抜けるのであれば、その給料を次にどうチームに投資するか、事業部と強化部が共に検討しないといけません。

難しいのが、チームの強化費予算を、前年度が半分過ぎたころから決め始めるという点です。随分先に当たる、来シーズン開幕時の時点で、チームにどんな補強をするのかを予想し、予算を組む。これが非常に難しい作業となります。

イチロー選手ほどのスーパースターが引退をするということは、これだけに止まらず、想像を絶するほど多くの関連ビジネスが影響を受けた(ている)のではないかと予想します。

スポーツチームでは、選手は勝敗と並んで最大の売り物であると同時に、ナマモノでコントロール不可能なもの。それがまたスポーツビジネスの難しさ、そして醍醐味(だいごみ)かと思います。

選手の引退の裏側では、運営チームがさまざまな調整や対応に追われることになる。選手に敬意を表しつつ、残された次世代の補強を考える必要があり、デリケートな課題も山積みだ

中村武彦

中村武彦
マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年アジア市場総責任者就任、パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

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