2018/05/11発行 ジャピオン966号掲載記事

中村武彦のプロスポーツから見る経営学

第27回 「プロ」の通訳


チーム成績に影響?
通訳の重要性を知る

ロシアFIFAワールドカップ前に日本代表監督の交代が大きなニュースとなったのは皆さんも記憶に新しいことと思います。

交代の理由についてはいろいろな憶測が飛んでいて、定かではないですが、今回の監督交代で、私がとても気になったのが「コミュニケーション不足」という点でした。

サッカー日本代表はこれまでも外国人監督を招聘(しょうへい)していますが、その都度、通訳も新たに呼ばれます。実は、この通訳という職業にあまりスポットライトが当たらないことを個人的には不思議に感じてきました。

優秀な外国人監督や監督が連れてくるスタッフが実力、能力を存分に発揮してもらうため、万全の態勢を整える必要があります。その中で、あらゆる橋渡しを行う通訳は大変重要な役割を担います。通訳は監督の考えを引き出し、正確に伝えることができる「プロ」でないといけません。でなければ、せっかくの投資も無駄になってしまうか、または最大限のリターンを得ることができないからです。

プロの通訳とは

私自身、仕事柄、講演や国際会議の通訳を務める機会が多くあります。その中で「英語ができる=通訳が上手にできるわけではない」ということを身を持って経験しています。実はこれが特殊な分野では非常に大事なポイントで、かつ見逃されてる点でもあると考えています。

特殊な分野で通訳を行うには、まず専門知識の有無が非常に重要です。私が通訳をする場合はスポーツビジネスに関する知識です。

当初は、勝手が分からず、一言一句直訳しようとしていました。しかし、これでは同時通訳をする場合、スピードが到底追いつきません。メモも取ってみましたが、これも同様に間に合いませんでした。経験を重ねるうちに、今ではまず話されている内容をきちんと聞き取り、頭の中で理解し、「要は〇〇です」と端的に述べることを心掛けています。こうしたやり方は当然ながら、スポーツ業界に対して全く知識がなければできません。

その業界や話題への基礎知識、さらには深い理解がないと、テンポのよい会話にならず、時間を浪費したり、会話の当事者のみならず聴衆がイライラしてきます。細かい点でいうと、「~と彼は言っています」と通訳するのもよくないです。通訳は話し手の代理となり、「~です」と当事者として話すこと。そして、分からないときは、あいまいにせず、その場で、「~ということを今言ったんですよね?」と聞き返すことも重要です。あいまいに訳すことで、会話にずれが生じ、最終的には誤解につながることが出てきます。

通訳を介した会議でありがちなのが、双方が相手の目を見ず、通訳ばかり見て会話をする状況です。これが起きていると、私は自分の通訳がうまくいっていないと考え、軌道修正するようにしています。

また時間がない場合、質問への回答が解り切っているとき、会話を促すために、通訳者がいちいち通訳せずに回答をしてしまうのも危険行為です。これは「君、英語できるから通訳として会議に入ってよ」というケースでよく見掛けるのですが、そうすると通訳がずれていき、話がかみ合わなくなり、誤解を含んだまま商談が進んでしまいます。講演などにおいては、最終的にまるで違う話になっているといったことが起こります。これまでそうした通訳を見てきて、途中で思わず口を挟むこともありました。

通訳は成績も左右する

鹿島アントラーズはチームの特徴として、ブラジル人選手を多く獲得しているため、それだけ通訳の重要性も理解していて、その部署に蓄積されているノウハウも深いものがあり、継続性もあります。

昔あるクラブが前年度の好成績から翌年絶不調に陥ったことがありました。その時クラブ内での前年度からの変更点を検討したところ、変えたのは通訳だけだったという話を聞いたこともあります。通訳の変更でそこまで成績が変わることに驚くと同時に、通訳の重要性をあらためて理解しました。

特に、監督の通訳をする場合、試合時などには、監督が瞬間的に感情を爆発させたりすることもありますから、語気やジェスチャーなどとも瞬時にシンクロして、選手に伝えることが求められます。その言語が話せればいいというレベルではないわけです。

海外に挑戦をする選手も、雇う通訳次第でパフォーマンスに影響が出るといわれています。訓練された経験豊富な通訳の給料は高額となりますが、それは食事、移動、サポートスタッフと同様に投資する部分だと感じます。

スポーツビジネスの仕事、特にグローバルなサッカーに携わっていますと、多言語にまたがるコミュニケーションの重要性をよく感じます。自分自身は英語、日本語、初級スペイン語が話せますが、イタリアやドイツに行く際、対話する相手に英語が通じなければ通訳をお願いすることもあります。

そういう状況では、通訳の重要さを知るだけに、あいまいなことは排除し、ポイントをシンプルにし、不明なところは再確認するようにしないと怖くなります。話す内容がスポーツマーケティング、スポーツ法など、特殊なものになるだけに、専門性を持った「プロ」の通訳が果たしてくれる役割の重要性を感じています。

サッカーワールドカップ開幕まで約2カ月前の4月9日、日本サッカー協会はバヒド・ハリルホジッチ代表監督と解雇した。解雇理由は選手とのコミュニケーション不足とされている

中村武彦

中村武彦
マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年アジア市場総責任者就任、パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

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