2018/03/09発行 ジャピオン957号掲載記事

中村武彦のプロスポーツから見る経営学

第25回 パシフィックリムカップ報告


スタッフの工夫が鍵
大会成功に導く戦略

 「パシフィックリムカップ2018Poweredby UNDER ARMOUR」が閉幕して3週間が経過しました。すでに何か遠い昔の出来事のように感じ、自分も含めてスタッフが皆、燃え尽きたのではないかと考えています。今回の大会は予算がふんだんにあるわけではなく、いかに工夫をして、知恵を出し合うかが成功の鍵でした。

デジタル戦略に注力

 この大会は今までハワイで開催されてきたものとは異なり3年プランで策定し、初年度の数値化できる達成目標の一つが観客動員数1万人を2日間合計で目指すことでした。そのため予算がない中でデジタルマーケティングに注力をしました。

 その決断を出した理由の一つとしては、本コラムでも説明したことがありますが、アメリカ国内におけるサッカー人気急伸の大きな原動力がミレニアルと呼ばれる若者たちの存在であること、そしてメジャーリーグサッカー(MLS)は、この層に着目し、2010年からデジタル戦略に注力したことが今結実し始めていることがあげられます。

 ハワイも当然アメリカであり、そこにいる若者たちの間でサッカー人気およびサッカー競技人口が伸びていることは調査済みでした。それゆえデジタルマーケティングに、限られた予算配分を決めて攻めることにしたのです。サッカーの中で有名なインフルエンサーやデジタルマーケティング会社と提携し、チケット販売に向けて、いろいろな施策を打ちました。結果として当初の目標であった1万人を超える1万1659人を突破することができました。その中でも興味深いデータとしては、この購入者のうち42%がオンライン購入した、という点でした。

 実はハワイは歴史的に、スタジアムに行ってチケットを買う、いわゆる「Walk Up」市場だといわれていただけに、今回の結果は意外なものでした。同時に調査を進めていく中でハワイは島であるために、最近ではソーシャルメディアなどを通して本土や島の外の情報を得る若者たちの層が急増していることも分かりました。限られた予算の中でどういう戦略を取るか考えた中で、デジタル戦略に力点を置くというのは自分としてもかなりドキドキした決断でした。

「当日静か」が成功の証

 これは大会運営における一部の話ですが、前回のコラムでお話しした通り、世界中から集まった運営スタッフが本当に見事な仕事をしてくれました。現地に皆集合するまでは異なる国、異なる時差、異なる言語、さらに異なる商習慣の中での作業に、四苦八苦していました。またこのような国際大会運営に携わること自体初めての人が大半を占める中で、私からの厳しい要求にも最後まで応えてくれたことへの感謝は一生忘れません。

 最も感動、感心したのは決勝戦当日です。大会責任者として会場入りしてから携帯電話も特に忙しく鳴るわけでもなく、問題も発生しない。試合の進行中もスタッフ全員に配布されたトランシーバーも静かなままで何度も周囲のスタッフに皆のトランシーバーも静かなのかどうか、自分のトランシーバーが壊れているのかと確認をしたほどでした。自分のキャリアの中で、150試合ほど国際試合に携わってきましたが、こんなことは今までにありませんでした。大体問題があちこちで勃発するはずなのに、ここまで何も問題が起きないというのは、大会運営に携わるのが初めての人が多かったにもかかわらず、彼らが、綿密に話し合い、丁寧に準備を重ねてきた結果です。

 大会終了後、片付けをし、関係者たちにあいさつ周りをする中で、皆から、よかったと言ってもらえたり、また来年も開催してほしいといわれる度に言葉に表すことのできない感情が込み上げて来ました。

一人ではできないこと

 「本当にできるのか?」「本当にやるのか?」「大丈夫なのか?」と周囲のみならず、自分自身も幾度となく考えた1年間でしたが、この運営チームだからこそ、また株式会社ドームの安田秀一社長および関係者の皆さんの力添えがあったからこそ、1年目から目標達成ができました。ここで得た経験や知識を今後、他のリーグにも拡大していきたいと思います。この感謝の気持ちは言葉に表しきれないですし、一人では何もできないのだ、と毎回痛感します。今回のコラムは、インドの俳優、ランビール・カポールの名言でしめたいと思います。

「I believe that working with good people matters because then the work environment is good. If there is a sense of respect and belief among the people you work with, that is when good work is done.」

パフィシックリムカップの運営に携わったスタッフ。彼らの尽力なしに成功はできなかった

中村武彦

中村武彦
マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年アジア市場総責任者就任、パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

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