2017/11/10発行 ジャピオン941号掲載記事

中村武彦のプロスポーツから見る経営学

第21回 なぜ球団オーナーになるのか


球団を保有する理由
「アクセス権」が魅力

 今回は、「なぜ、プロ球団に投資をしてオーナーになるのだろうか?」をテーマに解説していきます。

 メジャーリーグ、ニューヨーク・ヤンキースのスタインブレナー家、NBAダラス・マーベリックスのマーク・キューバン氏など、いわゆる富豪といわれる人たちがプロ球団のオーナーになるのは、自己顕示欲を満たすため、金持ちの道楽などと揶揄(やゆ)されることも多くあります。

 ただ、自身の能力を発揮し、成功を勝ち取ってきたビジネスパーソンたちが、そのような、ある意味、無駄とも思える投資をするとは考えにくいのではないかと思います。もちろん中には、道楽目的でプロ球団を保有する大富豪がいるかもしれませんが、今回は、そうではない人たちの話をしたいと思います。

アクセス権

 球団保有の大きな理由として挙げられる「アクセス権」です。例えば、あなたが、成功しているビジネスパーソンだとします。しかし、それだけでは、一国の首長と会って話をする機会を得るのは簡単なことではありません。例えば、それが、イングランド・プレミアリーグの「マンチェスター・ユナイテッドのオーナー」という肩書を持っていたらどうでしょうか。自分の保有する球団の試合に、首長を招待できます。そうすると、一国の首長へのアクセスが一気に現実的な話になります。これは少し大げさな例ではありますが、同様の考え方として、プロ球団のオーナーが他の事業展開を検討する際に、従来であれば開かなかった扉をこの「アクセス権」で開くことが可能になることが多々出てきます。

ベッカムと仲間に

 また、欧米ではオーナー会議があるとき、プロ球団を保有するほどの資金力を持つオーナーたちが、ビジネスパートナーとしてリーグ経営を一緒に行うことになるので、他の権力のある、または資金力を持つオーナーたちと一緒に新規事業を展開する「アクセス権」を得ることも可能です。

 余談ですが、デービッド・ベッカム氏がメジャーリーグサッカー(MLS)に新規参入するチームのオーナーになる予定ですが、MLSは彼にオーナーとなるマイアミの球団のフランチャイズ権を通常より格安で売却しました。なぜそんなことをするのかというと、ベッカム氏の参画が、他の新しいオーナーを募る際、「ベッカムと一緒にオーナー会議に出ることになり、ベッカムと経営仲間になれますよ」と言えるからです。これは「アクセス権」の非常に分かりやすい例かと思います。

投資の観点

 さて、もう一つの大きな理由は、やはり投資としての観点です。アメリカ国内にあるメジャースポーツリーグに所属する球団数は大体30前後です(NFL32、NBA30、MLB30、NHL31、MLS22)。

 MLSは28まで増やすと考えていて、まずは4球団拡張を発表しました。そして、そこに12人ものオーナー候補が名乗りを挙げました。MLS創設時(1996年)には10球団だったことを考えるとすごいことです。創設時は約5億円(1ドル=100円計算)だったフランチャイズ料は、現在200億円だといわれています。

 球団拡張を一度締め切ると、それ以上球団数が増えないので、球団を保有しようとすれば、既存球団を売却してもらうしか方法がなくなります。そうなると、需要と供給のバランスから売却側にレバレッジがあり、値段が一気に高騰します。

 2014年、NBAのLAクリッパーズは、約2100億円で売却されました。クリッパーズは1981年には約12・5億円で売却された球団です。NBAでは新規参入が見込めない状況で、球団を買う機会はなかなか巡ってきません。同時に、競合するバイヤーもいたため、確実に落札するためにこのように売却額が高騰しました。

米国プロ球団の特徴

 実は米国外のプロスポーツリーグでは、一部のビッグクラブを除いて、このような売却額の高騰はあまり起きません。なぜなら「入れ替え戦」が存在するからです。理論上、トップリーグに参入したければ自分で球団を立ち上げ、下部リーグから勝ち上がっていけば良いわけですし、降格の可能性があるため確実な投資対象としてみなしにくいのです。アメリカではトップリーグの入れ替え戦がないため、球団オーナーたちは閉じられた経営陣となり、仲間入りも容易ではないため、このような球団価値の上昇が起きるのです。

 15年にMLSに参入したニューヨーク・シティーFCが支払ったフランチャイズ料は約100億円だといわれています。その後、毎年約9億円の赤字を出していると推測されていますので、合算をすると約118億円の赤字です。ところがフォーブス誌が算出する球団資産価値はすでに約275億円となっているのです。

 損益計算書上では赤字であっても、貸借対照表上では利益が出ているものとなり、この考え方の違いは他の国のプロ球団のオーナーたちとは一線を画すのではないでしょうか。

NBAダラス・マーベリックスのオーナー、マーク・キューバン氏。IT、通信、映画業界で成功を納めたキューバン氏は、2000年にマーベリックスを2億8500万ドで買収しオーナーに就任した

中村武彦

中村武彦
マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年アジア市場総責任者就任、パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

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