2017/10/13発行 ジャピオン937号掲載記事

中村武彦のプロスポーツから見る経営学

第19回 スペイン訪問(後編)


バルサから学ぶ
グローバルな考え方

 前回のコラムでは、先月出張で訪れたスペインで感じたことを報告しました。

 スペインを含む欧州の国では、同じサッカーでありながら、まったく違う競技であるかのように、それぞれの国で歴史、伝統、想いが異なるとお話ししました。そして、「日本サッカー界の国際化」を標榜する弊社としては、「日本のサッカー」を確立させるために、単に彼らを真似るのではなく、むしろ日本の国技である大相撲などを分析して、その良い要素を参考に、「らしさ」を作っていくことが必要なのではないか、と提案しました。

懐かしきバルサ

 今回、さまざまなクラブやリーグを訪問した中で、一番印象深かったのは、スペインリーグ所属のFCバルセロナ(通称・バルサ)です。

 私自身がかつて勤務したクラブであり、久々に球団事務所を訪れるということもあって、感慨深いものがありました。オフィスの前には大きなクラブエンブレムがあり、バルサに入団する選手たちは、ここで必ず記念撮影を行います。

 私自身も2009年にバルサで働くことになって、ここで記念撮影をしました。今回も再訪を祝し、約8年ぶりに記念撮影をしましたが、このクラブで経験したこと、さまざまな思い出が次々とよみがりました。

 欧州のクラブは、会長選挙が定期的にあり、その都度、大幅な職員の入れ替えが行われます。私が勤務していた当時の会長、ラポルタ氏の後、2度会長の交代があり、一緒に働いていた仲間は減っています。ですが、今年7月に、バルサ・ニューヨークオフィスが主催した、バルサUSツアー2017のパーティーの際に、一緒に働いていた同僚たち数人とはすでに再会を果たしていて、今回も彼らと会うことができました。

 この日は、トップチームの試合ではなく、リザーブチームに相当する「バルサB」の試合をミニスタジアムで観戦しました。ここは、カンプノウの横にある小ぶりのスタジアムで、プロの試合だけでなく、スタッフたちが昼休みにはサッカーを楽しんでいて、私自身にとっても懐かしい場所でした。

クラブ以上の存在

 懐かしさに浸るのは、このくらいにして、もちろん今回は観光ではなく、研修が目的です。

 ここで働くスタッフによるレクチャーも受けました。その中で、現在、カタルーニャ独立運動の騒動が起きていますが、バルサは正にフランコ体制下のスペイン(1939~75年)の時代から、カタルーニャの人々にとっては、地域のシンボルであるという、バルサの有名なスローガン「メス・ケ・ウン・クルブ(クラブ以上の存在)」に関する解説がありました。

 この日、スタジアム内のミュージアムを案内してくれた若いスタッフの、「このクラブで働けることがドリームジョブだ」という言葉からも、クラブの地域での存在の大きさを感じることができました。

 ただ同時に、「政治・思想をスポーツに持ち込むのが好きになれない」と言って、同じ地域にある、中村俊輔選手がかつて所属したRCDエスパニョールを応援する人が存在するのも事実です。

チケットを売りたくない

 歴史と伝統そのものともいえるクラブ、バルサが、「チケットの売上はこれ以上増やしたくない」と考えていることが意外でした。

 プロスポーツ球団の場合、当たり前ですが、「どうしたらもっとチケットが売れるか」と考えます。バルサは特定のオーナーがいるのではなく、20万人近いソシオと呼ばれる個人会員によって支えられています。そのソシオでもチケットの入手が困難で、試合を観られない人が出てきているから、というのがその理由でした。ちなみにバルサが、これ以上売りたくないと言っているチケット収益が全体の売り上げに占める割合はたった5%です。

 またバルサは、観客の6割が初めてバルサの試合を観る人だといわれるほど、観光客に人気のあるクラブです。そうした背景からも、グローバルなクラブとして展開していく上で、カンプノウスタジアムの改修を行い、試合以外での収益源をさらに増やしたい、と言っていたことも印象に残りました。

 実は、スペインの他のクラブでは、「スポーツビジネスなんて!」「良いサッカーをしていれば、勝てばお客さんは来てくれるんだ」「余興や飲食なんてサッカーの試合に不要だ!」と、スポーツビジネスに否定的な意見が根強く残っています。

 一方、バルサは、ミュージアムの収益だけでも年間3500万ユーロという驚異的な数字をはじき出しています。これはJリーグやメジャーリーグサッカー(MLS)クラブの年間の総売上に匹敵する額です。

 グローバルに展開をするために、ニューヨークを含む海外事務所を開設していますが、かつては、このクラブの一員であった私自身、今回の訪問で、日本のスポーツも、このように海外に目を向けて進んで行くべきだと改めて思いましたし、このニューヨークでそのために、できることをやり続ける決意を新たにしました。

FCバルセロナの球団事務所前にあるクラブエンブレムの横で、8年ぶりの再訪を祝し写真を撮る中村氏

中村武彦

中村武彦
マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年アジア市場総責任者就任、パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

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