2017/09/08発行 ジャピオン932号掲載記事

中村武彦のプロスポーツから見る経営学

第19回 スペイン訪問(前編)


サッカー発展の道
歴史と文化がカギ

 出張でスペインに2週間ほど行ってきました。ラ・コルーニャに始まり、エルチェ、バルセロナ、マドリードと訪れた街は四つ、その間訪れたプロクラブ、団体は五つに上りました。

 Jリーグとスポーツ・ヒューマン・キャピタルの海外事業の一環として進めているコラボレーション事業のために、私が卒業したスポーツ法科学院、ISDEを訪れたり、かつて勤務したFCバルセロナでは旧友との再会を喜び、また、レアル・マドリードMBAで招待講師を務めた際の卒業生が、スペイン・プロサッカーリーグ、ラ・リーガ本部に勤めているのを知り驚いたりと、大変有意義な時間を過ごしました。

スペインの国技サッカー

 今回のスペイン滞在で、一番強く感じたことは、「サッカーがスペインの国技である」ということです。これまでも、イングランドのマンチェスター、イタリアのトリノ、ドイツのケルン、スペインのバルセロナなど、いろいろな国や街に赴き、各地でサッカーを観てきました。同じルールでプレーするものでありながら、それぞれ違う競技をしているのではないかと錯覚に陥ってしまうほど、各国の取り組み方やインパクトに違いがありました。共通しているのは、観客が「試合」そのものを楽しみに来場すること。試合そのものが観客をエンターテインするのだということです。

 かつてスペインリーグ1部にいたエルチェFCは不運が重なり、現在は3部に所属しています。チームとスポーツ・ヒューマン・キャピタルが共同で、卒業生のインターンプログラムを立ち上げているので、その視察とあいさつのために赴きました。アメリカで、私が研究をしてきたような試合以外のエンターテインメントも含めて観客を集めよう、という気持ちは希薄で、「勝たないと皆来てくれない」というクラブ関係者の一言に、その方向性が集約されていました。

 スペインの国王杯(コパ・デル・レイ)の試合の観戦に赴いた際、3部リーグのクラブが試合をしていましたが、少人数ながら熱狂的な応援をする観客がいました。彼らにとって、クラブがヒーローであり、われわれが普段テレビで目の当たりにするリオネル・メッシ選手などのスーパースターは、もはや神に近い存在。35歳にしてMLSニューヨークシティFCから3年ぶりに代表に招集されたダビド・ビジャ選手のニュースも、多くの人が話題にしていました。

 2部リーグのADアルコロコンのゼネラルマネジャーを訪れた際、 「ラ・リーガでは、FCバルセロナとレアル・マドリードの巨頭が存在する中で、クラブとしての存在意義やモチベーションは何なのか」と言う議論になりましたが、彼らはシンプルに「地域のため」「ファミリーのため」と答えていたのが印象的でした。

独自の歴史と文化

 日本に置き換えるために、うまい例えが浮かばないのですが、国技という意味で相撲に近いかもしれません。その起源が神話の時代までさかのぼるといわれ、日本人にとっては、歴史があるのはもちろん、文化の一つと捉えられています。相撲のワールドカップを開催するために、世界各国でプロ化が始まったと仮定します。日本では相撲の升席がなぜ売れ切れるのかを、海外の相撲リーグ関係者が、視察に来て、日本のそのままのやり方を真似してもうまくいかないでしょう。相撲の歴史と文化がある日本と、それがない国が同じことをしても有効でないことは明白です。あるいは、取組ごとの間に何か余興を、と言われると、「相撲はそういうものではない」と言ってしまいそうです。スペインにとっての「国技であるサッカー」はまさにそうした感覚で捉えられていると思いました。

 逆に面白いのは、今度本拠地であるカンプノウスタジアムを改修するFCバルセロナ。実は来場する人の6割が初観戦者で、ほとんどが観光客だそうです。このクラブの興味深い話は、次回詳しく紹介しますが、FCバルセロナは「サッカーがわれわれの歴史と伝統であり、存在意義ですが、グローバルに拡張するためにアメリカ流のエンターテインメントを多分に取り組んでいくことを意識している」と、エルチェなどとは真逆のことを話してくれました。

 グローバルにあそこまで拡張すると、ビジネスの側面への投資も可能となり、コアとなる試合を損なわず、その上にエンターテインメントなどを加えていくものなのだなと勉強になりました。

 MLSやJリーグ、あるいはその他のまだ新しいリーグやクラブでも来場者を楽しませたり、居心地良くしたり、また来たいと思わせる考えを大事にしつつ、自分たちの歴史と文化を大事に醸成していかないといけないのだなと再確認できました。

 欧州の歴史と文化は、欧州のものであり、日本やアメリカには自国の歴史と文化があり、それを伸ばすこと、それに沿ったものにしていくことが日本らしいサッカーというものの確立につながり、同じサッカーというスポーツでも、スペイン、ドイツ、イタリアのように、日本らしいものができあがっていくのが理想的だと確認できました。

スペインにとってサッカーは国技ともいえる存在。スペイン独自のサッカーの歴史と伝統、文化が存在する

中村武彦

中村武彦
マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年アジア市場総責任者就任、パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

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