2017/07/14発行 ジャピオン924号掲載記事

中村武彦のプロスポーツから見る経営学

第17回 試合というビジネス


興行主が費用を負担
国際試合のからくり

 激戦が続くFIFAワールドカップ(W杯)のアジア最終予選。私自身も遠くニューヨークから声援を送っています。皆さんの関心は試合自体にあると思いますが、当コラムで解説してきた通り、その背景にはビジネスの要素が当然ながら含まれています。

 例えばドイツリーグでプレーする長谷部誠選手が、日本代表の試合に出場するために、渡航し日本での合宿に参加するとしましょう。ではドイツから日本までの旅費は誰が負担をしているのでしょうか。日本代表の合宿で使う練習場の利用費、選手たちの食事や宿泊費、さらに保険、練習用具などの費用は誰が払うのでしょうか。気になったことはありませんか?

費用は誰が払う?

 私自身は、FIFAの発行するマッチエージェントというライセンスを保有し、国際試合をプロデュースすることを仕事にしています。その観点から解説すると、費用負担は試合や大会ごとの契約条件次第と言う部分もありますが、基本的には「興行主(プロモーター)」が費用を負担することになります。

 「興行主」とは何か。ざっくりと言えば、例えば日本代表とどこかの国の代表の試合を企画し、開催する個人あるいは企業のことです。興行主は試合会場を手配し、チームの出場を交渉し、チームの移動費、宿泊費、食費、練習場代、練習用具、通訳、メディア対応、保険加入、運営スタッフの手配など、全てを準備し、その費用を負担します。これら全ての費用を負担するわけですから、興行主は金銭的に余裕のある大手会社となります。これらの条項を一つずつ多方面に渡り交渉するのがわれわれマッチエージェントです。

 現在はマッチエージェントとして仕事をしていますが、メジャーリーグサッカー(MLS)の国際部に勤務をしていた際には、興行主の立場で予算編成をし、国際試合の企画・運営をしていました。MLSに在籍した6年間で150を超える国際試合を企画・運営しました。同様に日本サッカー協会が企画・運営をする国際試合であれば、協会が興行主となることもあります。

 スペインリーグのFCバルセロナの国際部勤務時代は、逆に出場をさせてもらうチームの立場として、マッチエージェントや、興行主と交渉を重ねました。

興行主とチームの間で

 興行主にも当然「予算」があり、その範囲内で収めないと赤字になってしまいます。ではこの「予算」とは何を指すのでしょうか。簡単に言うとその試合で得られる収入を指します。

 チケット収入、スポンサー収入、放映権収入、マーチャンダイジング収入などです。このチームとこのチームを、このスタジアムに呼んで試合をしたらチケット、スポンサー、放映権、マーチャンダイジングはどれくらい売れるだろうか。同時にスタジアム代やチーム招聘費はどれくらいかかるだろうか。スター選手が必ず参加することを約束させるためのギャランティー条項、ボーナス条項を入れるのか、入れないのか、などを考えます。

 ですから興行主は試合の企画をする段階で目利きでなくてはならいし、事業計画の策定も慎重に行う必要があります。

 一方、チームにとっては、例えば試合を行う地域にツアーをして、興行主にいくら出場料や経費を要求できるのかを考えます。さらにはツアー中にスポンサーイベントもこなすことで収入を得られるかもしれないといったマーケティング的要素、あるいは意義深いイベントで出場自体に価値があるかもしれない、などといろいろな要素を検討します。マッチエージェントは双方の間に入り、目的を的確に理解し、興行主、チーム、そしてファンがウィンウィンになるように交渉を数カ月かけて進めていきます。

国際大会の仕組み

 ここまで例に挙げたのは単発のアジアや北米ツアーなど、興行としての国際試合のケースです。

 W杯予選などFIFAが開催する国際大会はどうなるのでしょうか。予選では各国の協会が各自これらの費用負担し、収入も得ることになります。そしてワールドカップはFIFAが興行主となって実施されます。規模があまりにも巨大で契約も複雑なので、一つ一つ解説はしきれませんが、基本的な考え方としては興行主、参加チームがいて成り立つものです。そして巨額が動くため、ここ数年、FIFA内部の汚職が相次ぎ、サッカービジネスに関わる人間としては気持ちが晴れないものでした。

 ただ、それだけ人をひきつけ、グローバルに人をつなげるスポーツであるだけにますますボーダレスになっていくと思いますし、母国日本サッカーも、もっと国際舞台にて活躍することを祈っています。

国際試合でかかる、会場の使用料、チームへのギャラや選手の移動費用、食費に至るまで、さまざまな費用は興行主(プロモーター)が負担している

中村武彦

中村武彦
マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年アジア市場総責任者就任、パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

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