2017/05/26発行 ジャピオン917号掲載記事

中村武彦のプロスポーツから見る経営学

第15回 MLSの日本人選手


MLSでの活躍には
実力と自活力が大切

 3月に開幕したメジャーリーグサッカーもおよそシーズンの3分の1を終え、8月にシカゴで開催されるオールスター戦のチケット販売が始まりました。

 MLSのオールスター戦は、いわゆる東西対抗などではなく、オールスターと海外の強豪クラブが対戦するのが特徴で、サッカーという競技が国際的にプレーされていることを改めて感じさせてくれます。ちなみに今年はあのレアル・マドリードが来米します。

 オールスター戦となれば、日本人選手が選出されるかも気になるところですが、現在MLSでプレーする日本国籍を持つ選手は3人です。

 これはアジアスカウトを務めている私の力不足の何物でもないのですが、現在はニューイングランド・レボリューションに所属する元日本代表の小林大悟選手、そして同じくレボリューションのアカデミーで育ち、トップ契約を果たしたハイチ代表でもあるザグリー・エリボー選手(日本、米国籍も保有)、そして昨年日本人として初めてMLSスーパードラフトでドラフト1位指名を受けてトロントFCに入団した遠藤翼選手です。

 現在MLSに所属する約700人の選手構成のうち46%は米国外生まれの選手です。62カ国の異なる母国を持つ選手がプレーするプロスポーツリーグは世界を見渡してもそうはありません。移民の国であり、グローバルに親しまれているサッカーという競技ゆえの現象といえます。ちなみに選手の出身国別で2番目に多様性があるのはNFLの25カ国です。

他を凌駕する実力

 MLSでプレーするには大きく分けて三つのルートがあります。

①他のリーグからの移籍
②MLSクラブのアカデミーで育ち、トップ契約を勝ち取る
③米国の大学サッカー部で活躍し、ドラフト指名を受ける

 実は、②③は、日本人にとっては、狭き門です。というのもMLSは若手選手を基本的に時間をかけて育成する傾向があるからです。その育成段階でクラブが、「外国人選手枠」を使ってまで日本人選手を獲得するメリットは低いのです。そう考えると遠藤選手が、いかにチームから必要とされているのかが分かります。かといって小林選手のように①のケースが簡単かというとそうではありません。

 日本と同様に、外国人選手の移籍は、「助っ人」獲得が目的です。米国人選手にないものを持っているのは当然で、さらに周囲を凌駕する実力がないと契約には至りません。

 小林選手は日本代表に選出された経験があり、欧州でプレーをしてきた実績があります。かつ米国人選手にはない、アジリティーとテクニックがあるからこそ、MLSで着実に活躍し続け、今年で5年目を迎えているのです。

郷に入れば郷に従う

 スカウトとして選手を見て、MLSで活躍できるかどうかを分析するには、サッカーの実力だけでは決まらないのが面白い点であり、難しいところでもあります。

 各リーグはプレースタイルが異なります。Jリーグの場合は選手が連動したり、グループで相手を崩すという戦略を根本にしていますが、MLSはより個の力、打開力が要求される傾向にあります。いくら日本で素晴らしい活躍をしている選手でも、例えば、あうんの呼吸でプレーできるチームメートがいない場合でも、個の力で打開できるのかどうかが求められるポイントになります。

 海外生活への順応力のあるなしも大きな要素です。代理人や通訳が24時間付きっきりではクラブやチームメートに受け入れてもらえません。「君たちと直接話す気がありません」という姿勢だと受け取られ、クラブ側は自活力がない選手とみなし、契約しないということも起こり得ます。海外で成功する選手と、そうでない選手の違いは、競技の実力よりも、「自活力」に起因することが多いように私は経験上感じます。
 特に米国の場合、「サッカーだけして来ました」という選手は少なく、大学でプレーしてきた選手ならば、皆学位もきちんと取得していますし、競技だけでなく多くの人と付き合うことで、人間として多様性もあるように思います。

 言語が堪能でなくともよいのです。話そう、仲間になろうという姿勢が大事です。そして何よりも成功する選手は「日本ではこうだった」「以前はこうだった」といった言い訳をしない、「郷に入ったら郷に従え」ができる選手です。新しい世界で新しい価値観を得られる選手が成功します。

 これはプロサッカーの世界に限った話ではないと思いませんか? 留学生、旅行者、駐在員でも、日本人とばかり固まる人と、積極的にいろいろな人と交流する人がいます。実力に加えて、「郷」に飛び込めるか否か。

 実力があり、新しい価値観を獲得でき、MLSで真に活躍できる日本人選手をつれて来られるように頑張ります。

MLSで海外から移籍した選手が活躍するには、リーグのプレースタイルを習得できるかだけでなく、海外生活での自活力が必要

中村武彦

中村武彦
マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年アジア市場総責任者就任、パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

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