2017/05/12発行 ジャピオン915号掲載記事

中村武彦のプロスポーツから見る経営学

第14回 アメリカの部活動


巨額が動く大学の部活
管理するNCAAとは

 皆さんはNCAAという団体の名称を聞いたことがあるでしょうか?

 NCAAは「National Collegiate Athletic Asso- ciation」の略で、日本語的に解釈すると「全米大学体育協会」ということになります。主に、大学の部活間の連絡調整、管理、大会の実施、さまざまな運営支援などを行い、その対象選手の総数はNCAA公式サイトによると約42万人で、NCAAに参加している部の数は1000を超えます。

 世界の大学スポーツの中でもアメリカのそれは最大規模で、アメリカンフットボールやバスケットボールなど、一部の競技は、リーグ戦がテレビ中継されるほど人気が高く、2016年度の総売上は約1000億円ともいわれ(純利益は約8%)、協会の権威や発言力は非常に高いものとなっています。この収入の内訳としては、約8割が放映権料とマーケティング料となっており、北米の大学スポーツがいかに商業化されているかが分かります。

日本と違う部活

 例えばテキサス大学アメリカンフットボール部の人気は国内でトップクラスで、同部だけで年間総収入は約93億円といわれます。ライバル校との対戦など、人気カードのチケットは、最高で3000ドルにまでなるともいわれています。スポーツのトップレベルの大学が所属する「ディビジョン1」で戦っている部では、日本では(他の国でも)考えられない巨額のお金が動きます。そのため種目ごとにスタジアム、練習場、屋内練習場、ジム、プール、体育館、陸上競技場などの設備にもかなりのお金が使われています。弊社勤務で元女子サッカー日本代表の山口麻美は、フロリダ州立大学女子サッカー部に所属していた際、プライベートジェットで敵地まで行くこともよくあったそうです。

 また弊社でマネジメント契約をしているメジャーリーグサッカー、トロントFC所属の遠藤翼選手がメリーランド大学でプレーをしていたときに、彼を訪ねましたが、彼が住んでいた選手寮は、高級マンションさながらで、練習着から、ジャージ、スニーカー、試合時のスパイクに至るまで、用具は全て大学からの支給で、洗濯も自分でしません。もちろん、移動時にはチーム専用バスが使われていました。

 アメリカの大学の部活動では、日本と異なり、試合に起用する人数だけを取ります。サッカーでいうと、4学年合計で二十数名しか登録しません。日本の大学で4学年100人選手がいて5軍までというような状況と異なります。少数精鋭ゆえに奨学金も非常に重要で、特定の選手が全額もらえる場合もあれば皆に平等に分配されるものもあります。また選手たちは、NCAAの規定で、一定の成績を収めないと部活に参加できなくなるので、選手たちのために大学が家庭教師や自習室も用意します。

 NCAAという組織は、全ての参加校の管理を行い、各大学もこれだけ大きな予算の管理、売上げの管理のために専門の部署を置いています。この「アスレチック・デパートメント」は、大学でスポーツビジネスを学んだ学生たちの間でも非常に人気の高い就職先でもあります。

 強豪校のアスレチック・デパートメントともなれば、プロ球団に見劣りしない良い環境を整えています。例えばNCAAのルールでは、入学する選手の勧誘に金銭の授受を禁止しています。そのため、施設などに投資します。これでプロ選手がオフシーズンに母校で自主トレをするほどにまでになると、有望な高校生たちが、あの大学に入学すれば、今プロで活躍しているスター選手と一緒に、同じジムでトレーニングができる、といった魅力としてアピールするのです。

日本でも新たな動き

 私自身、日本では関東大学リーグという大学サッカーで上位のリーグに所属する青山学院大学の体育会サッカー部に所属していました。Jリーグに進む先輩もいましたが、練習では土のグランドを下級生がトンボ掛けし、練習着もスパイクも自ら購入し、さらに部費、合宿費も徴収され、試合ともなれば、自分たちで車を乗り合って現地集合し、飛行機になんて乗ったこともなければ、観戦客もまばら、スポンサーはおろかテレビ放送なんてされませんでした。大学日本一を決める総理大臣杯決勝戦でも同じです。決勝戦まで行くとも予想していなくてOB会にお願いして、急遽遠征代を負担してもらったことすらあります。

 北米ではバスケットボールの部活の監督もプロ契約で、10億円強の年俸をもらう人もいるほどですし、1試合の観客動員数が10万人に達するアメリカンフットボールの試合もあります。とはいえ、選手はあくまでも学生なので、スター選手となって名前入りユニホームが販売されても、選手への金銭の支払いはありません。

 日本では国全体が注目する一大イベントといわれる高校野球は、非商業性を貫いており、高校生らしさがウリである、という記事を読んだことがあります。

 アマチュアとプロのリーグ運営を単純に比較することはできませんが、政府がスポーツを産業として成り立たせることを掲げる日本においても、日本版NCAA創設の動きもあり、非常に注目しています。

インディアナ州インディアナポリスに本部があるNCAAには、約1300のアメリカ、カナダの大学や教育機関が登録している

中村武彦

中村武彦
マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年アジア市場総責任者就任、パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

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