2017/04/14発行 ジャピオン911号掲載記事

中村武彦のプロスポーツから見る経営学

第12回 観客動員数の増加


サウンダーズはなぜ
4万人動員できるのか

 メジャーリーグサッカー(MLS)の1試合あたりの平均観客動員数は2万2000人を超えました。

 この数字はホッケー(NHL)やバスケットボール(NBA)のそれを上回り、アメリカのプロスポーツリーグではアメリカンフットボール(NFL)、野球(MLB)に次ぐ3位に食い込んでいます。年間の試合数はNHL、NBAの方が多いので、年間通算観客動員数では及びませんが、それでも長年、「サッカー不毛の地」と言われてきたこの国では、驚くべきことです。

 さて、「サッカー不毛の地」という表現から、アメリカではサッカーの人気がない、と捉えられがちですが、実はそうではありません。移民の国ですから、世界的に人気のあるサッカーが好きな人は国内には多くいて、昔から人気もありました。例えば、メキシコ代表やスペインのFCバルセロナがアメリカで試合をすれば満員になることでも分かります。しかしアメリカ・オリジナルのプロサッカーリーグは、ペレ選手を擁するニューヨーク・コスモスが所属した北米リーグがかつてありましたが倒産し、以降20数年間存在しませんでした。しかもこのリーグが倒産したのも、サッカーの人気がなかったからではなく、リーグの構造があまりにも脆弱であったからです。

先駆者の失敗から学ぶ

 そんな中、リーグ構造を研究し直して、1996年に創設されたのがMLSです。創設後すぐに爆発的な人気が出たわけではなく、デービッド・ベッカム選手が移籍をしてくるまでの約10年間ほどは「人気のないリーグ」と見なされ、「北米ではサッカー人気がない」という定説は変わらぬままでした。

 それが創設20年で国内プロスポーツリーグで3番目の平均観客動員数を記録するまでになったことからも、潜在的にサッカーの人気があったことが分かっていただけると思います。

 人気チームとしてよく話題に上るのがシアトル・サウンダーズFCです。最近ではサッカー男子日本代表の本田圭佑選手や清武弘嗣選手などが移籍するのではないか、ということでも注目を浴びています。このチームの昨季の試合の平均観客動員数は4万2636人で、ニューヨーク・ヤンキースも超える驚異的な数字です。この成功の秘けつは何なのか?明確な一つの答えがあるわけではありませんが、MLSの中でいわれている、いくつかの要素があります。

サウンダーズの成功

 一つは、シアトル・サウンダーズは、旧北米リーグ(1984年に倒産)時代から参戦していて、その時代からのサッカー人気の土台があったことが挙げられます。そのためMLSに参戦した際には、強い地元のサポートがあったということです。二つめには、車を使用しなくとも公共交通機関で球場へアクセスができることも要素に挙げられています。

 そして三つ目はチームオーナーが強みをいかんなく発揮したことです。例を挙げると、サウンダーズの共同オーナーの一人はマイクロソフトの共同創設者であるポール・アレン氏です。彼はNFLシアトル・シーホークスのオーナーでもあり、サウンダーズ立ち上げの際には、シーホークスの球団経営のノウハウを惜みなくサウンダーズでも共有をしたという話は有名です。

 また、球団だけでなく、サポーターも要素として挙げられます。日本や欧州ではそれほど目新しいことではないですが、サポーターが構成する審議会があり、GM(ゼネラルマネジャー)選出やクラブ運営に対して進言することができます。また試合を盛り上げるために、自分たちでさまざまな企画を立案をしていますが、それを球団が支援するという関係性が構築されています。

 チケット販売戦略やそれに携わる人員が充実している点も見逃せません。サウンダーズの試合の観客は、ほとんどがシーズンチケットホルダーで、席はほとんど埋まっています。さらにシーズンチケット購入希望者のウエーティングリストも1万人を超えているという状況です。そこまで観戦への枯渇感を出せる腕前をチケット販売部門が備えています(サウンダーズは無料招待券などを配布しません)。

 そしてこれは偶発的なことですが、アメリカの北西部に住む若者たちが、旧態然とした他のスポーツよりも、「これからのスポーツ」としてサッカーに傾倒し始めたことが、サウンダーズ人気に火がついた理由だといわています。

 これを全てやれば同じような成功が得られるわけではないですが、どれを取ってみてもスポーツビジネスにおいては欠かせない要素でもあることは間違いありません。類似した環境を持つMLSの球団では、NYC(ニューヨークシティー)FC、トロントFCがあります。

 ニューヨークは日本人も多く住んでいる地域ですから、読者の皆さんが熱狂できるように、また日本人選手が活躍する姿を見られるように、MLSのスカウトとして、引き続き邁進して行きたいと考えます。

シアトル・サウンダーズの本拠地、センチュリーリンク・フィールドは公共交通機関でのアクセスがしやすい

中村武彦

中村武彦
マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年アジア市場総責任者就任、パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

NYジャピオン 1分動画


利用規約に同意します
おすすめの今週末のイベント