2017/02/10発行 ジャピオン902号掲載記事

中村武彦のプロスポーツから見る経営学

第8回 放映権


お茶の間観戦の仕組み
放映権の移り変わり

 皆さんはスポーツをスタジアムやアリーナで観戦する以外に、自宅やバーのテレビで観戦することが多いと思います。

 これはテレビ局が、スポーツ試合の興行主からスポーツイベントを放映する権利「放映権」を購入することから始まります。放映権を得たテレビ局が、その当該スポーツイベントを放映するわけですが、「お茶の間での観戦」は、こうした一連の仕組みの上に成り立っています。(ちなみに「放送権」はラジオ放送など映像に限らない情報を広く送ることを指します)。

 テレビ局は人気のあるスポーツイベントを自分のチャンネルで放送することで多くの視聴者を引き付け、そのチャンネルの視聴率を上昇させる(人気を出す)ことで、放送中のコマーシャルなどの値段を上昇させる狙いがあります。また有料チャンネルであればそのチャンネルへの加入者数を増やすことを考えます。

 ですので、通常はスポーツイベントを独占放送できるように「放映権」獲得の交渉をすることになります。ちなみに、2016年度NFL王者を決めるスーパーボウルの放映権を獲得したCBSは、試合中のコマーシャル価格を1秒当たり約17万ドルと設定していました。


OTTの登場で
変わる楽しみ方

 さて、日本のJリーグが動画配信大手の英パフォームグループと結んだ放映権契約が、国内のスポーツ界では過去最大の10年総額2100億円という金額になったことは、以前このコラムでも紹介しました。

 動画配信大手とのこの大型契約は、今後の「放映」と言う従来の形式から大きく方向転換をすることを決定付けています。まず何が異なるかと言うと、視聴はテレビではなく基本はパソコン、またはスマートフォンなどが主流となります。テレビで見るにはスマートテレビや付属品が必要となります。この「既存のケーブルテレビや衛星放送を介さず、インターネット経由で番組やコンテンツを配信するサービス」は「OTT(Over the Top)」と呼ばれ、テレビ放映の概念を大きく変え、当然のことながら、従来からの放送事業者を脅かす存在となっています。またOTTは、視聴者や制作者にも変化をもたらし、視聴者・ユーザーは、スマートフォンやタブレットなど多様なデバイスで視聴するなど、これまでの放送とは違う楽しみ方をしています。

 ネット利用の環境整備も進んでいる現状から、今後OTTのサービスはさらに加速することが予想されています。ちなみにOTTサービスと言われるものには動画配信サイトの「YouTube」「Hulu」「Netflix」、ボイスチャットメッセンジャーの「Skype」「LINE」、さらにはソーシャルメディアの「Twitter」「Facebook」などがあります。


観客が溢れてこそ
放映権の価値あり

 以前にもこのコラムで触れましたが、放映権は、スタジアムやアリーナで生でスポーツイベントを観戦したいけど出来ない多くの人がいて、その人たちがテレビなどで観戦したいという要望を持っているために発生したものです。このそもそもの理論でいけば、放映権の価値は、スタジアムを埋める観客の数と切り離せないもののはずで、スタジアムがガラガラなイベントをテレビ局が放映したい! などとは思わないわけです。

 しかし、球団としては、スタジアムがガラガラでも、高い放映権を販売すれば収入になると考えるかもしれません。ですが、その場合、チケット収入が振るわない上に、テレビ局が突然、放映権を買わないとなれば、いきなり収入がなくなるという非常にリスキーなビジネスモデルになってしまいます。実際にイタリアのセリエAなどはテレビ放映で試合を観ていると、スタジアムがガラガラなのが非常に不安な気持ちにさせられます。

 スタジアムが満員であれば、放映権の価値が高まることはもちろんですが、同時にテレビ局が撤退をしてもチケットの収益は残るので、いきなり窮地に追い込まれることはありません。
 ここアメリカのメジャーリーグサッカー(MLS)の2016年度の平均観客動員数は2万1000人で、世界のサッカーリーグの中でも7位に浮上し、放映権が2015年~22年の契約で年間9000万ドルというレベルにまで上昇し、まさにスタジアムで観戦する価値と放映権の価値が両立していると言えます。

 Jリーグも年間で計算をすると約210億円となります(MLSの約2倍)。この潤沢な資金を手にしたJリーグは今後どのような投資をして行くのか、非常に興味深いのではないかと考えます。

テレビ局が興行主から放映権を買い、放送することで、お茶の間やバーなどでのテレビ観戦が可能になる

中村武彦

中村武彦
マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年アジア市場総責任者就任、パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

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