2016/12/09発行 ジャピオン894号掲載記事

中村武彦のプロスポーツから見る経営学

番外編 特別インタビュー


未来を担う人材育成を
スポーツ経営を伝える

 前回に続き、当コラムの著者、中村武彦さんに、昨年立ち上げたブルーユナイテッドの業務について聞いた。

——Jリーグの一部門から来年4月に法人として独立する、クラブ経営の人材育成機関、スポーツヒューマンキャピタルで、国際事業開発を任されたという話を聞かせてください。

 まず一つは新設の同機関でスポーツ経営学を教えること。そして、海外でスポーツ経営学において優れている教育機関、例えばマサチューセッツ州立大学、マドリッドのロースクール、ISDE(Instituto Superior de Derechoy Economía)などと提携して教材を作成するほか、講師、教授を招いてスポーツヒューマンキャピタルのコンテンツにしていくのが任務です。

——日本向けにローカライズする必要もありますね。

 翻訳が必要ですし、取り上げている事例も、日本では非現実的なものは省きますし、ブリーフィングとディレクションを担当して、実際の授業に落とし込んでいくのが業務ですね。

——日本のスポーツ経営は黎明期。業界ではどんな動きがありますか?

 僕が2002年に米国に来たのは、当時日本には、スポーツ経営学を学べる場所がなかったからです。ただこの14年間を見るだけでも業界は大きく成長し、スポーツ経営学の知識を持った人材の需要は伸びてます。また、日本は少子化でモノが売れないといわれる中で、「スポーツ業界が日本の基幹産業にならないといけない」という意見も出てきています。昨年、スポーツ庁ができましたし、鈴木大地長官が先頭に立ち、産業を大きくしようという動きにはなってますね。2019年にはラグビーW杯、2020年に東京オリンピックもありますからね。

——業界で今、求められるのはどんなことでしょう?

 まだ予算がそこまでないので、リサーチや調査に膨大なお金をかけられないので、そうした知識先導のやり方よりも現場に一緒に来て、一緒に手足を動かして、一緒に汗を流してくれる人を欲しています。そのため僕は、毎月日本に出張していますが、みんなと机を並べて仕事するのが、今は一番大事だなと感じてます。

——ブルーユナイテッドも同様に成長していく時期に入っていますね。
 今、スタッフを少しずつ増やしています。現在は米国、欧州は僕が引き受けて、アジアは日本、カンボジアにもスタッフを置いて、各Jリーグクラブの海外進出を手伝っています。実はスタッフのほとんどが元選手なんです。アメリカのプロリーグでプレーした奥田哲也くん、カンボジアにはマリノスはじめ9カ国10チームでプレーした経験を持つ深澤仁博くん、そして来年からは元なでしこジャパンの山口麻美さんをインターンとして迎えます。

——元選手の皆さんは何か特徴はあるのですか?

 マネジメントなどを通して、彼らの芯の強さや人柄を見てきました。巷ではスポーツ選手は競技しかしていないから社会で通用しないなどと言われますが、絶対にそうではない。物事は教えられるものと教えられないものがあると思うんです。素晴らしい選手は、それぞれの素質がある上に新たに学んだり、経験を積みより良い選手になる。声を掛けた人たちは、海外でプレーした経験を持ち、外国語にアレルギーがないし、海外で遭遇してきた苦境での打開能力も高い。また海外でプレーするためには、行く先々で絶対に多くの人に助けられるわけです。そこから人柄の良さも分かりますし、人とのいい関係も築く工夫をしてきたことも分かります。そうした素地の上に仕事の技術と経験を与えれば、すごく優秀なビジネスパーソンになると思っています。

 また皆に共通するのは、現役を引退後、指導者以外の可能性を探りたいという思いを持っていることです。米国では大学スポーツが盛んですが、どんなに優秀な選手でも単位を取れないと卒業できないし、部活もさせてもらえない。引退後は、ファイナンスの学位を持っているから、金融業界に進むなんていう話も普通に出て来ます。プロ選手の引退後のキャリアも含め、スポーツへの考え方が日米ではまだ差があります。

 日本で何かを変えるには、前例がないと難しいと言われます。ただ、今、まさに日本のスポーツ業界が変わるために、新しい価値を作り出す、未知の領域に踏み出す瞬間だととらえていて、弊社も一緒に踏み出すところかなと思っています。

——今後の展開は?

 これから60歳で引退するとしてあと20年。一つのことを達成するのに3年と考えると、あと六つです。夢はまだいろいろとあるので、少し焦りますが、まずはブルーユナイテッドとしては、自分や社員の今までの国際経験を生かして日本サッカーの国際化をサポートできる一番の会社を目指していきたいと思います。

コロンビア大学で招待講師として授業を行った。同校のほか青山学院大学では非常勤講師を務めるなど、スポーツ経営学の教育に力を注いでいる

中村武彦

中村武彦
マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年アジア市場総責任者就任、パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

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