2016/10/14発行 ジャピオン886号掲載記事

中村武彦のプロスポーツから見る経営学

第5回 デジタルコンテンツ


未来見据え若者層狙う
発信手段が変革のカギ

  今年7月、日本のプロサッカーJリーグが、動画配信大手の英パフォームグループと結んだ放映権契約は、日本国内のスポーツ界では過去最大の10年総額2100億円という金額になりました。

 このパフォームグループが展開するスポーツに特化したライブ中継サービス「DAZN(ダゾーン)」が話題です。現在、日本はじめドイツ、オーストリア、スイスで視聴が可能で、130以上のスポーツ、年間6000試合以上が楽しめるサービスです。日本での料金は月額1750円。テレビ、スマートフォン、パソコンなどで利用でき、中継を見逃しても、オンデマンドでの視聴が可能です。

若者に合わせ変革

 従来の「テレビ放送」とは異なることが多く、日本人にはなじみが薄い点も多くありますが、昨今の若者層のデジタルコンテンツの利用傾向がプロスポーツ業界にも大きな変革をもたらしているということでもあります。若者層では、テレビよりも、スマートフォンやタブレットなどの端末での視聴が多数派です。

 これに呼応した動きとしてナショナル・フットボール・リーグ(NFL)では初めて試合の中継をツイッターと契約して実施したのです。これは「トライキャスト」と呼ばれる戦略の一環で、①地上波(CBSなど)、②ケーブル(NFLネットワーク)、③オーバー・ザ・トップ=OTT(ツイッター)という三段構えの中継(トライキャスト)です。

 地上波とケーブルは一般的ですが、OTTとはNFLの試合などのコンテンツサービス、あるいはそれを提供する事業者のことを指します。かつては「7時になったから野球中継を観るか」、と居間に移動しテレビをつけるのが一般的でした。しかし、現在は自分の時間がある時に好きな場所で観たいだけ観る、というオンデマンド方式に急速にシフトしています。

 ユーチューブは平均2〜3分、フェイスブックは1分弱が平均視聴時間だといわれています。プロスポーツ業界もこの流れを急速に取り入れていて、各プロリーグは自前のデジタル部門を保有するようになってきました。例えばメジャーリーグサッカー(MLS)では、デジタル部門を2010年に立ち上げ、専属のスタッフは約50人。メジャーリーグベースボール(MLB)などは自前のデジタル会社であるMLBアドバンスト・メディア(MLBAM)を2000年ごろに立上げ、今ではMLBにとどまらず、他のスポーツや映像制作まで行なっています。
 
MLSのデジタル戦略

 MLSは、アメリカが「サッカー不毛の地」と言われ続けてきました。しかし、すでに生まれた時からMLSが存在している若年層がおり、彼らをターゲット化し、このデジタル戦略が功を奏していて、1試合の平均観客動員数は伸び(現在はNFL、MLBに次いで3位の約2万2000人)、放映権も急伸してきました。MLSデジタルではそれゆえ、テレビ業界や映画業界よりも最近のデジタルトレンドに鋭い映像制作スタッフをリクルートするのがキーと言っています。

 冒頭のJリーグとDAZNの大型契約はこのような潮流から来ていると言っても過言ではありません。もちろんNFLのようなトライキャストまでは発展していませんが、確実に次世代の観客動員を見越した契約であることは間違いありませんし、Jリーグの未来への活路となる歴史的な一歩と考えられます。同時に初の試みゆえに楽観視できる事ばかりでは当然ありません。

 まずはOTTに対応するためのさまざまなデジタルコンテンツ対応、人の雇用、システムなどの整備と早急に行うべきことも出てきます。試合そのものの映像のみならず、ロッカールームの様子や、試合以外の様子など、その周辺映像のコンテンツ化もカギとなります。

 最近日本では「サカチャン」というサイトが注目されています。デジタル化は最初にお金が掛かる事ですが、一旦整えればそこから先への広がりは大きなものが見込めますし、意義のある「投資」です。

発展に設備投資

 本コラムでもプロスポーツはビジネスであり、投資が非常に大事だと繰り返してきました。また勝敗はコントロールできないとも言ってきました。ゆえに、大金を手にしたとたんにスター選手獲得にぱっと使ってしまい、その選手がけがをして、お金がパーになってしまうギャンブルでは意味がありません。リターンが見込め、成長するために、インフラや人材への投資は従来のビジネスでもスポーツのビジネスでも同等に重要です。

 さらに深い所まで書くには文字数の制限がありますが、Jリーグが、今回手にしたお金をどれほど投資し、クラブに配分するのか。その配分金を受け取ったクラブはどのような投資をするのか。今後Jリーグが益々発展するための意味を考察してみると、改めて非常に注目される大型契約であったと感じます。

プロスポーツは、テレビで見る時代から、スマートフォンやデジタル端末で見る時代にシフトしている

中村武彦

中村武彦
マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年アジア市場総責任者就任、パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

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