2016/09/09発行 ジャピオン881号掲載記事

中村武彦のプロスポーツから見る経営学

第4回 チーム買収


球団の値段の内訳
発展見据えた要素

 2014年、ロサンゼルスを本拠地とするナショナル・バスケットボール・アソシエーション(NBA)のロサンゼルス・クリッパーズが約2000億円で新しいオーナーの手に移る買収が成立しました。この買収の詳細は、また今度お話ししますが、フォーブス誌では当初、クリッパーズの市場価格は約575億円と言われていただけに、ここまでの値段が付いたことに、関係者は一様に驚きました。

チームの価値とは

 私がこのコラムで取り上げるメジャーリーグサッカー(MLS)はリーグができた1996年当時は約5億円支払えばフランチャイズ権を得ることができました。それが今では米国でのサッカー人気の上昇に伴い、その価値は約125億円だといわれています。

 実は米国のスポーツ界では、この価格を算出する専門の会社がいくつか存在します。一つ有名なのは、サッカーのイタリアセリエAのインターミラノの売買や英国プレミアリーグのリバプールの売買などを手掛けたインナー・サークル・スポーツ社。同社関係者と話す機会があり、彼らがどうやってチームの価値を算出しているのかを聞いたことがあります。いわく、財務状況や売上だけで算出した場合、実はそこまでの価値にはならない。プロスポーツチームの場合、加味される要素があるというのです。
 
価値を高める要素

 一つは、チームが所属しているリーグの今後の成長見込みです。衰退していくリーグに所属するチームでは、いくら人気があってもリーグ自体が広がらないことには、チームの成長・拡大は見込めません。

 二つめには、その競技自体の国内及び世界における人気や成長・拡大の展望です。こちらも同様に、その競技自体の将来性が価値算出に大きな影響を与えることになります。

 さらにそのチームの「ブランド力」も加算されます。以前お話しましたが、スポーツである以上、コントロールできない勝敗がつきものです。勝っている時に人気や価値が出て、負けているときに価値が下がってしまうのでは、投資しにくい状況になってしまいます。勝敗に左右されないブランド力は、チームにとって非常に大事なものです。

 また、忘れてはいけないのがスタジアムや施設などの不動産保有の有無。スタジアムなど不動産がないのであれば、チーム買収後に更に投資をしてスタジアム建設を行うオーナーもいます。「不動産」と書きましたが、スタジアムは不動産価値があるだけでなく、チームとして保有していない場合には賃貸料が発生しますし、自前のスタジアムでなければ、スポンサーの掲出も限られたイベントでしかできないので、価値の最大化が望めません。

 チーム経営陣ももちろん評価対象となります。誰も赤字を何年も垂れ流しているチームのオーナーになることはためらうでしょう。自分がオーナーになっても、安定した経営を継続してくれる経営陣を持つチームに魅力があるのは自明の理で、だからこそ、オーナーは先ずは最初に経営陣に有能な人材を連れて来て、その後に選手にお金を使うものです。

クリッパーズのケース

 チームの価値は、さまざまな要素が絡み合い、単純に売上や純利益、財務諸表上に出てくる数字だけで算出できないと話してきましたが、冒頭で述べたクリッパーズのような法外な値段になったのは、もう一つの要素が絡んでいます。

 そのチームが欲しいと思うオーナーが、競合相手にチームを取られないように安全だと思われる高値を付けることで、最終段階で他のオーナーに奪われることを防ぐわけです。ですのでクリッパーズのケースでは、高いと思うか安いと思うかは結局、オーナー次第です。

 チーム所有がお金以上の価値を生む場合もあります。例えば英国プレミアリーグのマンチェスターユナイテッドのオーナーは、英国王室を試合の貴賓席に招待するといった、お金に変えがたい栄誉を受けることができますが、これも例外ではあります。

 健全な投資対象として米国プロチームが向いているのは、1部リーグと2部リーグの入れ替えがないからだといわれています。コントロールできない勝敗のせいで2部に降格し、チームの価値が半減することになれば投資対象として考えにくくなるのは当たり前です。ファンにとっては盛り上がる要素ではありますが、ビジネスとしてみた場合、「入れ替え戦がない」ということが、米国のプロスポーツが投資家を引きつける理由なのです。

NBAロサンゼルス・クリッパーズの本拠地、ステイプルズセンター。2014年に、マイクロソフト社CEO(当時)のスティーブ・バルマー氏はクリッパーズを約2000億円で買収した

中村武彦

中村武彦
マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年アジア市場総責任者就任、パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

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