2016/04/08発行 ジャピオン859号掲載記事

堀古英司の経済ミラクルキャッチ!

第24回 薬品業界を取り巻く問題

新薬開発の裏に
投資家の存在あり


 ここ数年間、株式市場で最も上昇率が高かった業界といえば薬品業界が筆頭に挙げられます。1999年から2000年にかけてのITバブルはその後崩壊し、さまざまな問題が顕在化しました。一方でITの進化によってヒトのDNAが解読され、それをきっかけにこれまで治療不可能と思われた病気の特効薬が次々と開発されていることは、ITバブルの大きな遺産だと、私は考えています。長い研究と臨床試験と当局の審査を経て薬品として市場に出回るようになった成果が、ここ数年の薬品業界の株式上昇につながっているというわけです。

 これらはもともと主に、比較的小規模のバイオテクノロジー会社の成果によるものです。時間をかけて何段階もの臨床試験を重ね、その結果をもってFDA(アメリカ食品医薬品局)に申請し、これまた時間をかけて審査されて認可されて、やっと薬品として市場に出回るのです。

 市場に出回ってからも、臨床試験では起こらなかった事故が起こる可能性もありますし、その後ライバル会社がもっと副作用の少ない特効薬を開発してくるかもしれません。このように、薬品の開発は非常に大きなリスクと長い時間のかかるプロセスであるため、それに耐えられる資金の出し手の存在は非常に重要です。アメリカで多くの大型新薬が開発され市場に出回っている背景として、発達した資本市場と投資家の存在を忘れてはならないと思います。

批判を浴びた
バリアント社とは?

 しかし昨年夏以降、薬品業界を巡って問題が起こっています。代表的なのはバリアントという薬品会社です。前述のように、一般に製薬業界では新薬の研究開発に莫大な費用と時間がかかる一方、成果を得られずに投資が無駄になることも少なくありません。

 そこでバリアント社は、コンサルティング会社出身のCEOの下、独自の医薬品を開発した企業を次々と買収し、リストラによる徹底したコスト削減と薬価引き上げによって業績を拡大してきました。しかし「病気に苦しんでいる患者の命綱である薬価を引き上げるやり方は倫理に反する」と批判の声が上がるようになり、大統領選挙で民主党候補になるであろうヒラリー・クリントン氏は、バリアント社を名指しで批判しています。

 その後、会計の問題などもあって、昨年夏に260ドル台であったバリアント社の株価は急落、3月末には10分の1となる26ドルを付けました。度重なる買収に伴う借金が3兆円以上もあり、一部には破綻を懸念する声も出ています。

薬価引き下げの風潮が
広がるのは大問題

 多くの人は、「バリアント社のやり方はひどい。破綻になっても当然だ」と思われるかもしれません。しかしこのような動きが薬品業界全体に広がり、あたかも「薬価は安く設定しなければならない」という風潮が広がってしまうのは大きな問題です。というのは、前述の通り、新薬の開発にとって投資家の存在は非常に重要なのですが、リターンである薬品の価格がリスクに見合わないと投資家が判断すれば、資金が集まらなくなり、そもそも新薬の開発が出来なくなってしまうのです。投資家は声を上げて反論などしてくれません。黙って投資しなくなるだけなのです。

難病の治療薬は
少々高くても買う

 高くても特効薬が存在する事を望むか、安くて効かない薬で我慢するか。難病の患者を家族に持つ人なら当然、少々高くても、その難病を治療する薬が存在する方を望むでしょう。私も高校1年の時に父を亡くしましたが、今ではその病気には特効薬が開発されています。お金で解決できる問題ならば、いくら借金をしてでもその薬を手に入れていたことでしょう。そう考えれば薬価引き上げの問題は、単に批判していればよいものではないと思うのです。

 もちろん最も重要なのはバランスです。少なくともそのバランスが大統領選挙を通じて、薬品業界批判の方に行き過ぎない事を望むばかりです。

堀古英司

堀古英司
■ニューヨークに拠点を置く投資顧問会社、ホリコ・キャピタル・マネジメントLLC最高運用責任者。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」をはじめ、メディアに多数出演。著書に「リスクを取らないリスク」。関西学院大学時代、アメフト部で活躍。

今週の用語解説

バリアント

カナダの製薬大手、バリアント・ファーマシューティカルズ・インターナショナル。大型買収を繰り返し、事業規模を急速に拡大。2010年にCEOに就任したマイケル・ピアソン氏は、研究開発投資を減らし、買収によって利益を最大化する経営手法で投資家に注目された。しかし医薬品の不正な販売手法や売上高の水増し疑惑が昨秋に浮上し、株価は一時、最高値の10分の1に急落。同社は不適切な会計処理を認め、同CEOは事実上更迭され、大株主の著名投資家ビル・アックマン氏が取締役に加わった。

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