2016/03/25発行 ジャピオン857号掲載記事

堀古英司の経済ミラクルキャッチ!

第23回 クリントン候補が公約に掲げる税制

クリントン候補の公約
バフェット・ルールとは


 最近あちこちから、「なぜあんなに暴言を吐くドナルド・トランプ氏が追い上げられるのか」「アメリカは狂っているのではないか」という話をよく聞きます。しかし私は逆に、「ヒラリー・クリントン氏が大統領になったところで、本当にアメリカは良くなるのか」という疑問を持っています。それは国民の生活にとって最も重要な経済への影響です。

 クリントン氏が公約として掲げている税制の一つに「バフェット・ルール」というものがあります。これは年収100万ドル以上の高額所得者に、最低30%の所得税率を課す、というものです。高額所得者なら30%でも低いくらいだ、と思われるかもしれません。実際、事業や給与で100万ドルを得ていたら、現在既に40%近くの所得税率が課せられています。しかし株式の譲渡益税だと20%で済みます。

大富豪バフェット氏
富裕層への増税訴え

 4年前、世界の大富豪に名を連ねるウォーレン・バフェット氏はニューヨークタイムズ紙に「大金持ちを甘やかすのはやめよう」と寄稿しました。簡単に内容を要約すると、バフェット氏個人の所得税率は17・4%で、33~41%である社内の誰よりも低い、議会が10年間で少なくとも1・5兆ドルの財政赤字を削減しないといけない時に大金持ちを甘やかしている場合ではない、所得100万ドル以上及び1000万ドル以上の人に対する税率の即時引き上げを提案する、といった内容です。

 バフェット氏の税率は17%だったのは当時、1年以上保有している証券などに対する譲渡益税率が15%だった事が影響しています。現在アメリカの連邦最高所得税率39・6%ですが、株式の譲渡益がほとんどであるバフェット氏の税率はこの15%に限りなく近かったという事です。当時オバマ大統領も演説でこう発言しました。

 「高額所得者のバフェット氏の税率が17%で、従業員の税率が30%台というのはおかしい。速やかに改正されるべきだ」

投資がもたらすのは
税収、雇用、消費…

 一般の人ならこの発言をなるほど、と思ってしまうかもしれません。しかし金融やビジネスをやっている人ならすぐ、詭弁(きべん)であることに気付くはずです。というのは、バフェット氏が投資している企業は既に利益に対して法人税で35%払っているはずで、投資家としてのバフェット氏は残りの65%に対して17%を納めています。要するにバフェット氏は資本を投じることによって合計46%(1―0・65×0・83)の税金を納めているのです。

 それだけではありません。その投資により新規の雇用も生まれ、ひいては新たな消費や投資を経済にもたらしているはずです。そもそもバフェット氏がそのような投資を行っていなければ、アメリカ政府は法人税の35%も所得税の17%も得られていないのです。それどころか、その事業に伴う雇用も創出されていなかった事になります。

賢明とは思えない
成長の芽を摘む政策

 あらゆる経済活動にはリスクが伴います。そしてそのリスクを担っているのは資本であり、ビジネスが上手くいかない時、最も大きな損失を被るのは投資家です。一方でビジネスが上手くいったとしても、現状でも既に46%を引かれたほぼ半分しか手元に残らないという状態なのに、バフェット・ルールが採用されると、56%引かれることになります。これではリスクとリターンが見合わず、なかなか投資をしようと思わないのではないでしょうか。投資がなければ経済の成長も望めません。

 もちろん経済が絶好調の状態であれば、成長よりも再分配を重視して、高額所得者への課税を強化するというのも考えられるでしょう。しかしアメリカではほぼ10年ぶりの利上げが始まったばかりで、経済はまだヨチヨチ歩きの段階です。そのような段階で成長の芽を摘むような政策は賢明とは思えません。トランプ氏躍進の理由の一つは、多くのアメリカ人のこのような考えが後押ししている結果ではないでしょうか。

堀古英司

堀古英司
■ニューヨークに拠点を置く投資顧問会社、ホリコ・キャピタル・マネジメントLLC最高運用責任者。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」をはじめ、メディアに多数出演。著書に「リスクを取らないリスク」。関西学院大学時代、アメフト部で活躍。

今週の用語解説

ウォーレン・バフェット

アメリカの著名な株式投資家、経営者、慈善家。大富豪としても知られる。世界最大の投資持株会社であるバークシャー・ハサウェイの最高経営責任者。地元ネブラスカ州オマハを中心とした生活を送っているため、「オマハの賢人」と呼ばれている。企業の財務状況や実態価値の分析を元に、長期的視点に立って株式投資をする「ファンダメンタル投資」を行う。分散投資を行わず、基準を満たした優れた企業を買収あるいは株式を大量に取得する、集中的な投資を行うことで知られている。

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