2016/01/29発行 ジャピオン849号掲載記事

堀古英司の経済ミラクルキャッチ!

第19回 原油価格暴落で株式市場混乱

原油価格が落ちると
なぜ株価が下落するか


 1年半前、原油先物価格は1バレル当たり100ドル近辺で取引されていました。しかしその後急落を始め、2015年初には2分の1の50ドル、同年の年末にはほぼ3分の1の37ドル、そして16年初頭にはほぼ4分の1となる26ドル台を付けるに至りました。15年中もしばしば見られた現象ですが、16年に入ってからの原油先物価格の急落を受けて、世界の株式相場も歩調を合わせるように急落となり、今年は「株式市場の歴史において最悪の年明け」ともいわれています。

 しかし1970年代、原油価格が高騰したオイルショックによって世界経済が大混乱したことからすれば、逆に原油価格の下落は経済にとって良いことなのではないのか、特に車社会のアメリカでは、今後ガソリン価格の下落によって消費者に大きなメリットがもたらされるのではないか、という疑問が沸いてくると思います。それでは原油価格の下落はなぜ、今回このように株式市場に悪影響を与えているのでしょうか?

シェール開発による
供給過剰が原因

 そもそも今回、原油価格が下落を始めたきっかけは、アメリカを中心とするシェール開発による供給過剰がきっかけでした。左上の図は石油生産量の推移を示したものですが、2009年以降、OPEC(石油輸出国機構)諸国による生産量がほぼ一定であったのに対して、アメリカとカナダの生産量はほぼ50%も増えています。このほとんどがシェール開発によるものです。

 原油価格は需要と供給のバランスで決まりますが、これだけ供給が増えていたにもかかわらず、14年はイラク、パレスチナ、ウクライナなどで断続的に軍事衝突が起こり、石油の安定供給に対する不安が高まっていた事もあり、原油価格は100ドル近辺での高止まりが続いていたのです。しかし供給に対する不安が後退するやいなや、需要と供給のバランスがそのまま原油価格に反映される形で急落が始まったというわけです。

株式の売却で
産油国が損失穴埋めか

 シェールオイルの損益分岐点は、原油価格40ドルの所から110ドルの所まで、広範囲に渡っています。ただその中心は70ドルくらいですので、原油価格が70ドルを下回れば多くの業者は赤字になるため、生産を止めるはずです。

 正直な所、私も原油価格の下落は予想していましたが、この理由から、結局中長期的には60ドル台で落ち着くと考えていました。もちろんいずれそうなるかもしれませんが、少なくとも短期的には最近の30ドル割れに至る原油価格の下落は、別の要因が働いているとしか考えざるを得ません。恐らく需要は短期的に大きく変わることはないでしょうから、30ドル割れでも売らなければならない主体がまだ多く存在している、ということなのです。

 そしてそれは恐らく、財政や年金などを石油収入に大きく依存している産油国でしょう。一定の収入を見込んでいたものが、原油価格が半額になってしまったので、収入を同じにするには量を2倍売らなければならない、原油価格が3分の1になったら3倍売らないといけない、という動きになっているのです。

 産油国は石油収入を世界の金融市場で運用してきましたから、その収入の穴埋めのために株式を売却しないといけない、そのような動きが現在世界の金融市場で起こっていると見るのが自然だと思います。

非合理な動きは
中長期的に修正される

 しかし既にお気付きの通り、原油価格が下がれば下がるほど売らないといけない、原油価格が下がったら株式も売らないといけない、というのは経済的に合理的な行動ではありません。短期的な行動を別にすれば、中長期的には原油価格が下がれば生産量を減らすはずですし、それはいずれ原油価格の上昇につながります。また前述の通り、原油価格の下落は、ガソリン価格の下落を通じていずれ、アメリカ経済の7割を占める個人消費を刺激し、それは株式市場のサポート材料になるはずです。

 もちろん市場というのは短期的にはこのように「下がるから売る、売るから下がる」と、非合理的な動きになることがしばしばあります。そしてその非合理性を、中長期的に修正していくのも市場自らなのです。

堀古英司

堀古英司
■ニューヨークに拠点を置く投資顧問会社、ホリコ・キャピタル・マネジメントLLC最高運用責任者。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」をはじめ、メディアに多数出演。著書に「リスクを取らないリスク」。関西学院大学時代、アメフト部で活躍。

今週の用語解説

OPEC

産油国が、欧米の石油カルテルに対抗して自らの利益を守るため、1960年に結成した組織。イラン・イラク・クウェート・サウジアラビアなど13カ国が加盟している。本部・事務局をウィーンに置く。

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