2019/03/01発行 ジャピオン1008号掲載記事

共感マーケティング

第217回  「名詞を創造しましょう」

ドリアン助川さんに、ネーミングについて示唆的な話があります。2002年ごろのこと、 ニューヨークから来た米国人のお客さん(ベー君)をおすし屋さんで歓待することに。冷蔵ケースを指差すので、「あれはカンパチ、これはタイ」などと教え、握ってもらいました。すべておいしく平らげ、満足してくれたのにホッとし、さて帰ろうとしたとき、べー君がひとりごちた。「日本人はどうして魚にいろいろ名前を付けるのだろう? Fish is fish.(魚は魚なのに)」

すべてFish!?
混沌から切り取る営み

つまり、ベー君にとってはカンパチもタイもマグロもすべて「fish」なのでした。こんなことなら地元調布にある回転ずし「アジ・サバ・コハダ光り物3貫で160円!」で十分だった!(笑)…とまあ、こういう内容です。

ニューヨーク、今は状況が変わっているのかもしれませんが、この話、ネーミングの本質を突いています。そういえば、ちょうどいま日本はプロ野球春季キャンプの真っ最中。朝の報道番組などでどこそこのチームがどうした、何したとやっているものの、私にとってプロ野球選手は全部一つのかたまり、区別つきません。興味ないので。

ネーミングとは、対象物を混沌(とん)の中から切り取り、自分の世界の中に住まわせる営み。愛が生まれます。ペットやぬいぐるみ、愛車(自転車にも!)、家具、パソコンに名前を付けたりするのも、「自分の世界に住まわせて、愛を育みたい」からです。

知り合って長いのに名前をなかなか覚えてもらえないと悲しい思いをしますよね。これは相手の世界の中に自分が入り込めていないという疎外感を覚えるからです。

ネーミングの本質
ブランド化促す

ここから、ビジネスにリンクさせます。そうです。ネーミングとは、お客さまの世界に入り込むための装置であり、愛を育むための導線なのです。また、何かしらの専門家とは、その世界の名詞をたくさん知っている人のことであり、多くの名詞を作り出した人なのです。

思えば、私も、マーケティングやブランドの世界で「とんがったモチーフ」「とんがり」「土足マーケティング」「お祭り型市場」「気づく力」「ゆるみ力」「ブランド・ジーン」「フォーカス・マーケティング」など、24余りの用語を作ってきました。

スターバックスコーヒーのおかげで「フラペチーノ」とかなんとか、カフェメニューを覚えた人、実は多いのではないでしょうか。スタバにあり過ぎるほどあるメニューの数は、「スタバの世界」を構築するのに役立っているのです。

能を体系化した世阿弥は「舞台」を着想しました。それまで演者は芝居、つまり、芝の上で演じ、観客は野球場のように見下ろして鑑賞していた。

「舞う台」をつくることで、演者を観客が見上げるようにした。これによって能という演劇のランクを一段上げる心理的効果が生まれることになりました。

皆さんも、自分のビジネスに関する名詞を創造しましょう。それがブランド化を促し、お客さまがあなたのブランドやビジネスへの愛を育む一助になるのです。

世界はネーミングでできています。平凡な業界を、とんがったものに変えるのはネーミングです。

阪本啓一

今週の教訓
ネーミングが世界をつくる

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

バカボンのパパと読む「老子」実践編

「選ばれていない時が、選ばれている時なのだ」(本文から引用)

シリーズのもとになる「バカボンのパパと読む『老子』」の実践編。こちらの方が自由にのびのびと著者の体験も入っていて読みやすいです。TAO(道)、無為自然、存在、意識…哲学的なコンセプトを、卑近な事例を使って分かりやすく。 書いても書いても売れない。出版社も、もう、本を出したがらない。そういう「選ばれていない時」の「仕込み」が、選ばれるための大事な時間。浮き沈みは人生につきものです。 その「沈んだとき」の過ごし方が、次を決める。

私はTAOの実践者でありたいと思っていますが、本書でさらに楽になりました。自然に任せる。人為的なことは何もしない。経営 も人生も、不自然なことは避ける。美しさ、感性だけを信じる。これでいいのだ。映画「あん」、もう一度見たくなりました。

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