2018/12/07発行 ジャピオン996号掲載記事

共感マーケティング

第205回  アホ塾

知人のお嬢さん、耳が痛いと泣き出しました。あまり泣く子ではないので、心配になって日曜に救急病院で診てもらったら「軽い中耳炎かも」と痛み止めを処方されました。でも、薬が切れたらまた泣き始める。これはよほどの痛みなんだ。翌日朝イチでかかりつけの耳鼻咽喉科へ。耳に異常はないという。でも痛くて、夜眠れないほど。火曜日、耳でないならと小児科に。診断は「頸部リンパの腫れ」で、喉薬を処方されました。そのまま学校へ行きましたが、夕方「限界のようです」と先生から電話。

耳の痛さの原因は

耳でも、喉でもないなら、一体何が原因なのか。知人は考え抜いた挙げ句、もしかしたら歯かもしれない、と、かかりつけの歯科医を訪ねました。この先生は、歯並びの矯正の相談をしたとき、「(矯正する前に)まず食事する椅子を替えましょう。お風呂のときに顎の体操をしましょう」と指導してくださって、結果、矯正しなくて済んだことがあります。この姿勢、信頼できます。診断の結果、「奥歯に微細な穴が空いていて、そこにバイ菌が入って炎症を起こし、神経を刺激している」と分かりました。耳の痛みの原因は、歯だったのです。

これで学ぶことがあります。「単純な因果関係は誤りに導く」という。「複雑な問題には、必ず、明確で、単純で、間違った答えがある」とは、ジャーナリストのヘンリー・ルイス・メンケンの言葉ですが、まさに。

私たちは、因果の奴隷になっています。「こうすれば、こうなる」。科学は因果を突き詰め、それが技術に昇華され、例えば家電製品などに結実します。「このボタンを押したら自動的に注水され、適量で止まって、洗い出す」という風に。科学はいい。しかし、日常生活や仕事で、単純な因果関係は危険です。特に企画は、単純な因果関係でストーリーを作ると既視感にあふれた、つまらないものになります。

おっさんがただ食べる

テレビ番組「孤独のグルメ」(テレビ東京系)。現在シーズン7まで放映される人気です。原作マンガもヒットし、イタリア、フランスはじめ海外でもよく読まれているようです。でも、企画書にすると「おっさんがひたすらおいしく食べる」です(笑)。因果関係は成立しません。それを大人気コンテンツに仕上げるのはマンガや映像の力。テレビ番組でいうなら、松重豊さん演じる主人公の心のつぶやきをバックに、本当においしそうに、幸せそうにバクバク食べる姿です。これ、言語化しづらい。なぜヒットしたのか。答え。分からない。

私たちは学校で、「原因と結果」について徹底的にアタマに入れました。だからどんなことにも原因と結果がある、と思い込み、そのように思考します。最たるものが「ごめんね~、わたし、雨女だから~」というやつで、あなた神ですか。世界はもっと複雑。子供が不登校になりました。親はあれこれ考えます。「自分(親)との関係に何か問題があるのだろうか」「学校でいじめられているのか」そして、それら原因を取り除けば解決する、と考えます。そんな単純なものではありません。分からないのです。親としてやるべきことは、愛情あふれる姿勢で、ただ、受け止めるのみです。

アホ塾というのを企画中です。これまでアタマにインストールされた因果をすべて洗い流し、「アホ」になるための塾。誰か来るかなあ。

 

阪本啓一

今週の教訓
アホになりましょう

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

モーレツ! イタリア家族

「仏像のように静かな旦那の背景に、こんなカリブ海を北上するハリケーンのような家族がいただなんて、誰が想像し得たでしょうか。」(本文から引用)

ヤマザキマリさんは、夫のベッピーノさんと結婚し、イタリアの実家で暮らし始めました。なんと、夫の両親とその母親2人、妹(小姑)との総勢8人もの大家族生活です。これがまあ凄まじい。また、日本とイタリアの比較文化が面白い。お母さんが料理苦手で、そして、パワフル。庭で放し飼いの鶏を自らさばいて料理する。しめたての鳥肉は硬くて噛み切れないのだそう。

イタリアの親戚友人総勢9人で日本旅行に。そのアテンド記が傑作です。超人的なオバサマたちと一緒にいて、自分のパワーがたちまち尽き果てる、という体験。実はこれ、原作なしで単行本になった初作品。イタリアを離れ、リスボンへ移住してから描いたとのこと。そしてリスボンでのお風呂への渇愛が、やがて「テルマエ・ロマエ」へと結実するのでした。

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