2018/11/02発行 ジャピオン991号掲載記事

共感マーケティング

第200回 ストーリーを想像しよう

朝食後のお茶をゆっくり飲んでました。私は新聞を、妻は雑誌を見ながら。すぐそば、ガチャガチャガッチャーン、と何だかせわしない。ホテルマンがケーキなどを片付けている音です。若いから仕方ないか、と見ると白髪頭のベテラン風。

後ろでもガッチャーンとやってます。

場静寂も価値

時計を見ると午前10時。私たちがいるのはホテルのラウンジ、エグゼクティブルーム利用者限定の場所です。10時が、朝食からティータイムへと切り替わる時間なのでしょう。それにしても、「早く出ていってくれ」と言わんばかりの騒音。

ホテルマンたちにその意図はなさそうなのですが、音はブランドに大切な要素です。

ここはエグゼクティブ・ラウンジ。特別なゲストだけが入室を許される特別な場所です。さて、「特別」。どんな「特別」なのか。ここで、ホテルマンはブランドの提供価値に沿ったストーリーを想像する力が必要です。

このホテルはいわゆるラグジュアリーなホテルで、同じ京都でも四条や烏丸御池のような喧騒とは少し離れ、自然の中にあるロケーションです。つまり、「静寂」が売りなのです。現に、三つの建物に囲まれた庭園はちょっとした山のお散歩コースになっています。階数で言うなら2階分高低差のある「山」が、庭園内にあるのです。鳥も遊びに来ますし、滝が流れています。

豪華な調度品、照明、などでラグジュアリーを出すのではなく、自然が演出する豪華さが売り。そこでは「静寂」もブランドの大切な価値なのです。

描かれるストーリー

Sound of silence。静けさという音。

このブランド価値のために、ゲストにはどんなストーリーの登場人物となっていただくか。

朝の静けさ。窓の外には京都の自然が広がる。遠く神社の鳥居も見える。お寺の屋根がかすむ。都会では味わえない静かな、ゆったりした時間。都会は音の玉手箱だ。建設機械の音、人の歩く雑踏の音、電車や車の音、携帯の音、ドラッグストアから流れるテーマソング…。

このホテルではどうか。「朝」という1日の始まりがスローに流れる。ゲストは新聞や雑誌を目にしている。しているが、しかし、本当のところは何もしていない。「何もしないことをしている」のだ。「静けさという音」の中で。

私たちホテルマンは「静けさという音」に浸っているゲストを邪魔しない役割を背負っている。無音というギフトを提供しなければならないのだ。

このように、ストーリーによっては「何かをする」のではなく「しないこと」で生まれる価値もあります。

一方、繁盛しているラーメン店は、「にぎわいの音」がお客さま満足を高める効果があります。オーダー受けての、「はい特盛一丁!」「はい、とくもーりー‼」という感じですね。ブランドはストーリーが大事。ストーリーの中に込める「音」に注目してみましょう。

ストーリーによっては「そぐわない音」「NGな音」が出てくる可能性があります。「水、そば粉、わさびなど、すべてこだわりの素材を使い、職人が長く鍛えた腕を味わってもらう」そば屋だとします。BGMは何にしますか。味がおいしいのに、BGMがなぜかジャズ、というそば屋、意外に多い。ストーリーから考えたというより、単に店主がジャズ好き、というだけの理由で流していることが多い。

つまり、ストーリーが足りない。ストーリーがしっかりしていれば、BGMだけではなく、顧客さえ自然に決まるものです。

阪本啓一

今週の教訓
顧客さえ、ストーリーが決定します

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

こうして店は潰れた 地域土着スーパー「やまと」の教訓

「やまとを生かしてくれた地域への恩返しなのだから、これでお客さんが増えるとか、少しでも利益を出そうなどという姑息な考えは一切やめた。」(本文から引用)

著者は山梨県韮崎市という地域に「土着」したスーパーやまと3代目経営者。39歳で家業の社長に就任した後、前任者の放漫経営を改善し、赤字からV字回復させました。家庭の生ゴミを堆肥にし、地域の農家に無償配布、採れた野菜を販売するという循環型経済を実現。マイバッグ無償配布でレジ袋を削減したり、貧困家庭への食料品支援したり、ホームレスを正社員として採用したり、高齢のため買い物難民になりそうな地域にマイクロバスで移動スーパーを出したり。「いいこと」をしているのです。

なのに、なぜか、2017年12月破産申請、翌3月破産宣告。経営の奥深さをケーススタディーとして学ぶため、私は経営塾のテキストとして採用し、みんなで学んでいます。なぜ、倒産? どうすればよかったのか。生きた教材として。

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