2018/09/07発行 ジャピオン983号掲載記事

共感マーケティング

第192回 失敗から学ぶ

「成功はアート、失敗はサイエンス」という言葉があります(『なぜ倒産』日経トップリーダー、日経BP社)。成功はさまざまな環境や条件の下、丁寧に一つずつ積み上げてようやく成果として手に入るアート。だから再現性は低い。失敗は、その積み上げたブロックが、たった一つの判断ミスによってガラガラと崩れてしまうことから生まれる。たいていの失敗は類型化できるため、再現性が期待できる。だからサイエンス。

長くビジネスの現場にいて、納得できます。主宰する経営塾でも、「こうすればうまくいく」事例より、「これはやっちゃいけない」事例をシェアするように心掛けています。どういうものがあるでしょう。

社長が数字に暗い

業績不振の会社に共通するのが、「社長が数字に暗い」です。

数字には2種類あります。財務と計数管理です。財務とはいわゆる会計で、会社のお金の流れ「入りと出」を数字でつかみ、かつ、儲かっているのかどうかを理由と共に理解していること。計数管理とは、例えば、ブランドA、B、Cの三つあるとして、それぞれのブランドがもうかっているかどうかを理由と共に数字で理解していることです。

「理由」というのは、「うまくいかないとき」に手立てを打つために必要だからです。「ん?もうかってるよ。なんとなく」では、困りますよね。あと、数字で社内が動くようにするのも計数管理です。

倒産した会社の事例で、こういうものがありました。時代の流れが大量生産から多品種少数生産へと変わり、そのため現在の工場設備が過剰になってしまった。1年に1回しか使わない設備さえあり、その設備のための人を常時雇わなければならない。仕事がないときは他の生産に回ってもらうのですが、本来の仕事ではないため、創意工夫するなどなく、どうしても「お客さん」になってしまいます。

財務的にも余裕がないため社長は設備と余剰人員を減らしたいのですが、社長と経営のツートップである弟(生産担当)が首をタテに振りません。こうなると論理ではなく情実が優先してしまいます。結局ずるずると過剰設備のまま時間だけが過ぎていき、出血が続いて、この会社は倒産してしまいました。

では、どうすればよかったのでしょう。社内で数字を共通言語にする風土を作っておくのです。好調なうちに、弟と数字指標を設定し、「これ以下になったら生産設備を減らそう」と合意しておくのです。

悪くなってからだとどうしても情実が入ります。肉親同士ならば余計に。だから数字で合意しておくことが重要です。

Me, tooの癖

業界の他社がセールをしたらうちも、個別包装を始めたらうちも、キャラクターグッズを始めたらうちも…。「Me,too」の嵐です。いいように言えばベンチマーク・マーケティングですが、簡単に言うと猿まね。ある食品メーカー、業界大手が個別包装をし、消費期限が長くなって、かつ衛生的だとお客さまの評判が良いと分かりました。「じゃあうちも」ということで、年商の1・5倍もの設備投資をして、個別包装できるようにしました。年商の1・5倍ということはバクチです。しかも、お客さまにとっては「他にある」ものであり、オリジナルな価値は感じられません。起死回生の一手となるどころか、これが命取りになり、倒産してしまいました。「戦わない」大原則を破って、「Me,too」をやると、こうなってしまいます。

失敗をしっかり学ぶことは、必須です。

阪本啓一

今週の教訓
うまくいかないときこそ、チャンス

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

怪談牡丹燈籠

「堪忍の忍の字は刃の下に心を書く、一ツ動けばむねを斬るごとく何でも我慢が肝心だぞよ。」(本文から引用)

「幽霊が下駄の音をカランコロンとさせながら訪れてくる…」で有名なこの噺(はなし)、もとは幕末1863年ごろ、円朝の創作。それが歌舞伎や映画になる際、幽霊の部分だけが取り上げられた。1日2時間、15日間、全体で30時間かけ演じられた長編。それを明治17(1884)年、当時の最新技術速記法で文章に起こした。江戸時代の人々の話し言葉や風物、生活習慣が分かり貴重です。

言文一致の嚆矢(こうし)であり、夏目漱石「我輩は猫である」はこの21年後の出版。言文一致第1号小説、二葉亭四迷「浮雲」は本書を参考にしたとされています。わが日本語の礎としても、意義深い本。内容は、忠義、嫉妬、裏切り、パワハラ、仇討ち…。円朝師匠、「人間ってのはさ、こんなもんだよ」と教えてくれています。小気味良い江戸前がクセに。

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