2018/08/24発行 ジャピオン981号掲載記事

共感マーケティング

第191回 鍵はコンセプトと組織

 ビジネスの業績を決める鍵は事業コンセプトです。もちろん製品・サービスは大切。アップルの時価総額が1兆ドルを超えたのは、iPhoneの歴史的ヒットが貢献しています。ビジネスプランも、製品・サービスを中心に考えられます。しかし、製品・サービスを生み出す母とも言える、事業コンセプトが最も重要です。

 あなたが家具販売店を始めるとします。コンセプトを「低価格なのに、おしゃれ」にしたら、IKEAと重なり、競争が発生します。IKEAは世界から材料調達し、キャッシュも潤沢に持っています。低価格戦略で利益を出せるのは、キャッシュが潤沢にあることが第1条件。プラス、外部環境変化があっても一定の品質を維持できるだけの材料仕入れ力が必要です。どうやらIKEAと戦うのは避けたほうがよさそうです。

 IKEAと戦うのをやめて、「お値段以上のお値打ち品質」というコンセプトにしたとします。今度はニトリと戦うことになります。繁盛の鍵は「戦わない」。ニトリやIKEAがやっているのなら、自社はやらない選択をするのがビジネスの定石です。

組織も重要

 一方、コンセプト「だけ」でいいというものでもありません。航空会社を経営しているとします。あなたはこれまでの堅実なナショナルフラッグキャリアとしての航空ビジネスに加え、LCC(格安航空)事業を始めようと考えました。

 「同じ飛行機を飛ばすんだから、価格の違いだけで、うまくいくだろう」と。もしこの段階で相談されたら、私はやめるようアドバイスします。理由は、組織。どんないいコンセプト、マーケティング戦略でも、実行するのは組織であり、そこで働く人間です。組織はどこも長い歴史の中で、交わされる言葉、時間感覚が蓄積しています。
 ナショナルフラッグキャリアと呼ばれる航空会社の組織体質は何しろ国を背負っているのだから、「安心安全」「冒険しない」、そして時間感覚がゆったりしています。かたやLCCに適した組織はどうでしょう。少なくとも日本においては「旅の達人」がメーンのお客さまです。旅の要素である「宿、交通、現地アクティビティー」それぞれの予算配分をきっちり自分でデザインできる人たち。彼らはネットを駆使し、高速で旅を計画し、チケットを手配します。大手航空会社がふだん接しているお客さまとは感覚が違います。そもそも社員の何人が、プライベートでLCCを利用しているでしょう。

 同じ球技でも野球とサッカーが全く違うのに似ています。使う頭脳や筋肉、そして速度感が違うのです。ただ「似たようなもんでしょ?LCCでも、飛行機を飛ばしてお客さまを運べばいいんでしょ?」と事業を定義していたら間違います。土地勘ない人が簡単に扱える事業ではないのです。

「参入」してはいけない

 「**社、***事業に参入」という表現があります。これは「戦いに参加」という意味で、本来やってはいけません。現代は、「ないものはない」「欲しいものがない」社会です。既に「間に合ってるよ」の状態なんです。既にある製品・サービスと何が違うのか。「違い」を生み出せなければ、やる意味はありません。

 新しい顧客の「欲しい」を創造できる場合のみ、ビジネス領域に進出する意義があります。つまり、コンセプトとは、「欲しくなるネタ」。どんな新しい「欲しい」を創造できるか。そしてそれを形にできる組織とはどんな姿をしているのか。腕の見せどころです。

阪本啓一

今週の教訓
戦わない

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

みんなの西郷さん

「あなたが、もし西郷さんだったらたくさんの問題がでてきたときに、どうするでしょう。考えながら、読んでみてください。」(本文から引用)

 明治維新150年の今年、大河ドラマをはじめ、西郷さんが脚光を浴びています。ただ、私たちが目にするのはドラマや小説であり、脚色された姿です。先日、直系子孫の方とお会いする機会に恵まれました。

 その方いわく、「世間でよく語られる西郷さん、実像とは相当かけ離れている」。本書は尚古集成館学芸員の著者が史料で確認できる事実のみから浮かび上がる西郷さんの姿です。出された食事は全部食べる、40歳過ぎてデスクワークが増えたため太り気味となり、運動兼ねて犬を飼い始めたなど、興味深いエピソードに触れられます。

 「隆盛」が実はお父さんの名前だったというのには驚きました。当時、諱(いみな)をあまり重視していなかったことが分かります。「よかよか」と気にしなかった西郷さん。やはり大きい。

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