2018/07/20発行 ジャピオン976号掲載記事

共感マーケティング

第186回 馬の「職業」をつくる

 沖縄・久米島のホテルで見つけたパンフレット。「『海で馬遊び』久米島馬牧場」と書いてあります。「馬に乗って浜辺を散歩したり、馬といっしょに泳いだり」。

 これ、いいやん! 自然と動物が嫌いな阪本ですが、なぜかスイッチ入りました。実際にやってみると、楽しいのなんの。乗馬初体験でしたが、海なので、万が一落ちても大丈夫。その安心感で、存分に楽しめました。馬具を使わず、裸馬の背中に乗ります。馬の体温を感じ、じかに気持ちの交流ができているような、そんな感じでした。

 琉球王朝時代、沖縄は馬産地として栄え、年間1000頭余りを輸出していたそうです。また、ほんの数十年前まで、馬は農耕に、生活に欠かせない仲間でした。在来馬は、いわゆるポニーと呼ばれる、肩までの高さが147センチ以下の小柄な種です。気は優しくて力持ち。生まれてから一度も人間に嫌なことをされたことがないので、決して蹴ったり暴れたりしません。

馬の職業をつくる

 牧場を始めたのは井上福太郎さんと奥さまの恵子さん。井上さんは大阪・千里のご出身です。だから都会のど真ん中。車ビュンビュン走ってます。馬、歩く余裕ありません(道路交通法上は自転車と同じ軽車両扱いなのだとか)。でも馬に乗りたい。乗馬クラブに行ったものの、価格も格式も高く、何かが違う。とはいえ、馬への思いは絶ち難い。馬に乗るための方法は次のいずれかしかない。めちゃくちゃお金持ちになるか、自分で馬のオーナーになるか。

 井上さんは後者を選び、沖縄は与那国島へ行きました。そこで師匠から学び、馬と、働く女性スタッフを連れて、久米島へ。そのスタッフが恵子さん。師匠からは「馬も女性も連れて行くとは、盗賊だな!」と激怒されたそうです。

 5年後、井上さんの活動を見て師匠は「盗賊じゃなかった。救世主だ」とお許しが出たそうです。救世主というのは、馬を保護する活動を指します。

 保護といっても、行政から補助金をもらうとかではなく、「馬の職業をつくる」「地域と共生する仕組みをつくる」ことです。

 馬遊びのメニュー「山遊び、海遊び、浜を散歩…」などを考案し、久米島へ遊びに来た人たちのアクティビティーとして提案する。馬にとってはお仕事です。

そして、馬たちは、島内の耕作放棄地、つまり、誰も耕作地として使わなくなった畑を借りて、放牧しています。だから伸び伸び。沖縄では、放置しておくと草ぼうぼうどころか、簡単に森になります。馬にとってはおいしい自然のごはんだし、土地にとってはメンテナンスになるというわけです。糞も落ちるので、土地に栄養が行き渡ります。つまり、究極のサスティナブルなビジネス。

 サステイナブル・ビジネスというと、肩に力の入った感じがしますが、井上さんの牧場は、スローで、等身大、無理のない姿でした。

仕事は自分でつくる

 馬牧場であらためて、「仕事は、与えられるのではなく、自分でつくる」のだなあと思いました。そう思っていたら、GLAYがこれまでの全音源と映像を定額で配信するサービスをアプリで提供するニュース。TAKUROいわく「自分たちはGLAYのプロですから」。つまり、GLAYファンについては誰より詳しい。だから「温かいスープは温かいままに」ダイレクトにファンに届けたい、と始めたそうです。

 この姿勢も、自分で仕事をつくりだす覚悟を感じました。単なる「中抜き」とは思想が違います。ファンの反応をじかに感じ、GLAYを磨いていこうという意図でしょう。

阪本啓一

今週の教訓
職業は自分でつくり出すもの

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

小泉放談

「うーん、正直、『まだそこを背負わされるのか?』と思うことは、ありますよ。仕事で『なんてったって~』ってフレーズを言わされそうになるとか…。」(本文から引用)

 あのキョンキョンも50歳を超えた!それを機に25人の先輩たちと対談し、「50代以降をどう生きるか」について考える、という企画。これを読むと、あらためて彼女は「小泉今日子」という職業を自分でつくったのだと思います。

 中学のとき一家離散し、「できるのは新聞配達かアイドルくらい」と思ってこの道に入ったそうです。先般「女優休止宣言しプロデュース業に専念する」と発表しました。いろいろ言われているようですが、私は「小泉今日子のネクスト」を興味深く見ています。

 思えば、「スター時代の終わり」のきっかけを作ったのは、小泉今日子だったんだなあ、としみじみ。そういう大きなお役目を背負った彼女が吉本ばなな、樹木希林、美輪明宏、伊藤蘭…、そうそうたる顔触れとの対話。面白くないはずがない。

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