2018/05/04発行 ジャピオン965号掲載記事

共感マーケティング

第176回 人は育てるもの

洗濯機を買いに某大手家電量販店へ行きました。事前にネットでわが家にフィットする機種を決めていたので、売り場で探し、実物を見、サイズ感とか、操作性を確認して、気に入れば買う。簡単です。見つけました。手元のスマホでもう一度確認、製品番号も合ってます。「このカードをレジへお持ちください」という製品カードを取る。ここまで2分。

大丈夫か?

さて、レジへ行くと、ずらっと並んでいる社員が全員「新入社員」というラベルを名札に掲げています。人情として、不安になります。誰かベテランはいないのかな、ともう一度売り場に戻って、そこでぼんやりしている社員に声を掛けると、彼もまた新人でした。仕方ないので「これ、お願いできますか」と彼にカードを見せると「あ、レジへ持って行ってください。ご案内します」。

いやレジの場所は知ってるんだけど…と思いながら彼の後をついていきます。「分かりました。ありがとう。頑張ってくださいね」と新人君に言って、レジに並んでいる中で適当に声を掛けてカードを渡すと、非常に戸惑っています。「あ。はい…」。

あちゃー、ここからか!! 予感は的中。彼…仮にP君としましょう…P君は業務プロセスを全く理解していなかったのです。後ろに控える先輩に聞き、「在庫を確認して参りますので、しばらくそちらのテーブルでお待ち下さい」。

私は年に1回程度ですが、この店で買い物をしています。だから業務フローは分かっています。洗濯機のような「設置」「中古引取り」が必要な製品(エアコン、テレビもこの部類ですね)の場合は、いくつか確認ポイントがあります。エレベーターの有無、洗濯機の場合は設置する場所に水受けするためのパンがあるかどうか…など。P君はたぶん、それらをまるで知らないはずです。やがて、そのメーカーの担当者が呼ばれたのか、助っ人でP君と一緒にやってきました。ベテランらしきメーカーさんは、てきぱきと私に確認してきます。それをP君に伝言し、P君は注文伝票に記入していくのですが、どこに書いていいやら分からない始末。

こちらとしては、P君が細かい製品番号を書き損じないか、ハラハラします。「ホワイトだから、Wと書くの」と教えてもらっています。「エレベーターの有無」「エレベーター?」「どうやって運ぶのよ」「あ」…。

それから後も同様で、最後はレジで先輩社員と私がやりとりする始末。だって家電量販店のポイントとか、5年保証の扱い(本日のお買上げ金額の5%のポイントを保証に使っていいでしょうか?)など、何回聞いても分かりません。それはきっと新人のP君にとっても同じでしょう。

悪いのは会社

その日は4月11日。どうやらP君、OJTも何も、座学ですら業務プロセスを学んでいないようです。「教えてもらったけど、忘れた」レベルではないのです。P君に罪はない。悪いのは会社です。メーカーとお客さまに教育してもらおう、という魂胆なのです。改めてネットで検索してみると「4日で辞めた新入社員」という話題が数年前ありました。「今どきの若い者は」的な批評が目につきましたが、これは違う。教えてない会社が悪いのです。

大事なお金を使って買いに来てくださるお客さまに白紙の社員をあてがい、メーカーにフォローさせる。この姿勢はいただけません。「その分安くして」と言いたくなります。

人は一人で育ちません。売り場は舞台。徹底的にリハーサルした上で舞台に立たせてあげましょうよ。

阪本啓一

今週の教訓
一人で育ちなさい、は乱暴です

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
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阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

「あいまい・もやもや」こそが高収益を生む

「これからの世の中では、個々人一人ひとりが、変化する社会活動に対し、自分が持つ個性的な強みをどう社会にフィットさせていくかが、企業よりも重要になる時代が来ると思います。」(本文から引用)

 社会が成熟し、「ないと困る」ニーズから、「あったらいいな」というニーズへ転換しました。私の用語でいうと、MUST商品からCUTE商品への転換です。
 著者はキーエンス、THK勤務時代の経験から、「市場予測」「ニーズの見極め」というビジネスの常とう手段が有効ではなくなっていること、そのかわりに、人間の持つ「あいまい・もやもや」した直観が有効であることに気付きます。追うべきは「Market(市場)」ではなく、「Customers(個々の顧客)」であり、個々の顧客に丁寧に向き合って、フィットさせる「Product- Customers-Fit」という手法に行き着きます。
 まさに私が現場で感じていることと一致しており、大いに勇気付けられました。個人、中小企業の人にはとても示唆に富む一冊。

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