2014/11/14発行 ジャピオン788号掲載記事

共感マーケティング

第6回 だからパッケージは大事


人間の認識と記憶

 スーパーマーケットへ洗剤を買いに行きました。初めて行く店なので、洗剤コーナーを探すのにちょっと時間がかかりましたが、棚を見つけたらすぐでした。わが家で使う洗剤は決まっているからです。棚に並んでいる多くの洗剤の中から、目当ての洗剤Sが「浮かび上がって来る」ような気がしました。理由は、私の頭脳の中に、Sという洗剤ブランドが旗を立てているからです。

 人間の認識は、「何かをとらえるために、他のものを捨てる」ことで成立しています。混み合ったパーティ会場で目の前の人と会話ができるのも、その他の人の声を「雑音」として捨てられるからに他なりません。洗剤Sのパッケージが浮かび、そして私は手に取りました。他にもたくさんの洗剤が棚に乗っていましたが、私にとっては「なかったこと」になっています。

 キユーピーはマヨネーズのパッケージに工夫を凝らしています。赤いしまが特徴的なので、マヨネーズがたくさん並んでいても、すぐにキユーピーのものと分かります。これも、「他のマヨネーズをなかったこと」にするためのパッケージです。

 

人は瞬時に判断する

 ある研究によると(*)、チェスのマスターは盤を5秒見るだけで、15分見つめ続けた一般レベルのプレーヤーより正確にゲーム状況を把握すると言います。ただしこれも、ちゃんと戦局として成立している盤に限ります。マスターの頭脳には、チェスの戦局を意味あるチャンク(塊)として、およそ30万個のデータベースがあります。だから5秒見るだけで、データベースからチャンクを検索し、局面を理解できるのです。ところがランダムな駒の置き方だと、戦局として成立していませんから、データベースの力を借りることができず、一般のプレーヤー並みになってしまうのです。

 これは、チェスに限りません。ピアノ、外科手術、テニスなどの達人たちも同様の認識をしています。

 メジャーリーグで標準的な速球の球速は160キロ、3メートルの距離を75ミリ秒で通過するといいます。別の表現をすると、ピッチャーの手を離れたボールがホームベースに到達するまでの時間がおよそ400ミリ秒。人間の単純反応時間、つまり、眼球が情報を受け取り、筋肉を動かすまでの時間は200ミリ秒で、これはプロの運動選手であろうとアマチュアであろうと変わりません。つまり、ボールがピッチャーとホームベースの半分の距離まで届いたら、後は目をつむっていても同じなのです。テニスのサーブは時速210キロ。野球もテニスも「ボールをよく見て」それから反応していては間に合いません。つまり、トップバッターは相手の手と腕の動きを手掛かりにして、データベースから情報を検索して判断しています。テニスプレーヤーも、対戦相手がサーブする直前のわずかな上半身の動きで、ボールが自分のフォアハンド側に飛んでくるかバックハンド側かを判断します。

 顧客が店の棚でやっていることもこれと同じで、瞬時の判断なのです。だからこそ、商品のパッケージは大事です。覚えてもらいやすいネーミング、印象的なパッケージデザイン(触る手が覚えている)…。

 これはレストランなどの店舗にも言えます。いつもの看板、いつもの照明、いつものBGM、そしていつもの笑顔。これらすべてがパッケージとなって、顧客の記憶に残ります。顧客は店の選択を、実は一瞬で決めています。瞬時に選択してもらうためにも、パッケージに注力しましょう。

*スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?
ディヴィッド・エプスタイン(早川書房)

阪本啓一

今週の教訓
瞬時に選ばれるためにも、パッケージは大事なのです。

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?

ウサイン・ボルトらジャマイカ勢、ケニアのカレンジン族が、陸上競技界を席巻しているのはなぜか? 「一万時間の法則」を実践すれば、だれでも一流になれるのか? 「努力」は「才能」にどこまで迫れるのか?(本書より引用)

 今回のコラムのテーマ「瞬時に選ばれるためにパッケージは大事」を着想したのが、この本を読んでいる時でした。内容を簡単に要約すると、昔からよくあるテーマ「スポーツにおける強さの源は遺伝子によるものか、それとも後天的なトレーニングや環境によるものか」です。

 もちろん、遺伝か環境か、という二元論ではなく、その両方が大切というのは分かりますが、科学的見地から言えばそれでは満足できません。幸い、遺伝か環境かについて、最先端の遺伝子研究はかなり深いところまで明らかにしています。

 著者は最新の科学のもたらす成果と、赤道直下から北極圏まで自ら足を運んでアスリートたちを取材した成果をミックスし、魅力的な文章でぐいぐい読ませてくれます。NYタイムズベストセラー。

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