2018/03/16発行 ジャピオン958号掲載記事

共感マーケティング

第170回 UI&UX

 UI(ユーザーインターフェース)とUX(ユーザーエクスペリエンス)について考えましょう。分かりやすく言うと、自宅でワインを飲むときに使うワイングラスがUIで、やっぱりジャズを流しながら飲んだらおいしいね、がUXです。UIとUXを発生させる顧客接点をタッチポイントといいます。

タッチポイント犠牲に 

 1990年代以降、ビジネスの現場は、「効率化」の物差しで、ビジネスがまるでタオルのように絞られてきました。

 そこにAIだのロボットだのが入って、「変なホテル」のような、ロボットがフロント業務する業態も生まれました。また、そこまでいかなくてもホテル予約は基本ネットになりました。また、チェックイン、チェックアウトは機械でやることも珍しくありません。タッチポイントが犠牲になったのです。もったいない、と思います。

 ホテルでも旅館でも予約のためにかけた電話で「空気」を感じたものです。

 「有名な老舗だけど、電話から伝わる空気、なんだか冷たいなあ。考え直そうかなあ」みたいに。これはレストランでもそうですね。電話の応対がキビキビしていたら、その段階で店に対する期待が膨らむものです。ところが食べログやオープンテーブルといったアプリに代用させてしまいました。

 これら、お客さまとの大切なタッチポイントを犠牲にして、ホテルやレストランが得たもの、失ったもの、どちらが大きいでしょう。私は差し引き、失ったものの方が大きいと考えています。

再現性の彼方に 

 効率化の目指す先にあるのは再現性です。誰がやっても同じ成果が得られるという。コンビニは「あの店員さんがいるから行く」店ではありません。また、アマゾンも再現性です。決済手段と届け先住所を一度登録しておけば、本であれヨガマットであれキッチンペーパーであれ、何でも速攻で購入できます。

 ところが、働き手が減少し人件費が高騰、そのおかげでコンビニの経営を根底から揺さぶり始めています。「本部との契約があるけど、24時間店開けるのは、正直キツい」これが経営者の本音です。1500万円売り上げても50万円しか手元に残らないコンビニの経営インセンティブは非常に低くなっています。

 「近所の店に行けばあるかもしれないものを、わざわざトラックで運んでもらうのって、どうよ?」というアマゾンへの疑問を抱く人も少なくありません。スーパーマーケットやハンバーガーチェーンなども再現性をとことん目指すものです。しかしながら、傾き過ぎたシーソーは必ず元に戻ります。人肌感といいますか、非再現性を人は求めるようになっています。

だからUI&UX

  つまり、タッチポイントとUI&UXの復権です。小さなショップや個人経営店にとって、ものすごいチャンスです。富山県南砺市井波エリアには、職人に弟子入りできるゲストハウスがあります。空き家を改造したゲストハウスに宿泊しながら、町にある職人の工房に通い、クラフトのワークショップを体験できるというコンセプトです。地図を見ると、交通が不便なところにあります。「だからこそいい」のでしょう。2016年9月オープンから1年で1000人の宿泊があり、その7割が外国人、その6〜7割が欧米人の個人旅行者といいます。これは新しいまちおこしの姿だと思いますし、「日本の自然と工芸を実体験する」というのは、外側ではなく、旅行者の内側にじわじわと滲(し)みていくものです。 

阪本啓一

今週の教訓
工夫にお金は要りません

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

新装版 おはなしの知恵

「自然科学にのみ頼って世界観、人生観を築くことがあまりにも一面的であることに人々は気づきはじめた。」(本文から引用)

 スマホもアプリも自然科学的アプローチで使います。つまり、「このボタンを押したら、こうなる」という因果関係。ところが、アプリの先にある人間は時に牙を向いてきたり、理解に苦しむコメントを投げてきたりします。なぜなら人間はアプリと違い合理的因果関係で生きていないからです。

 ここが大事なところで、人間の不合理、不条理な部分を「学ぶ」必要があります。ボタンを押すだけの検索やアプリだけに親しんでいると、無理。ではどうするか。いまこそ、「おはなし」に親しむことです。

 本書はユング派心理療法家河合隼雄さんが日本昔ばなしを素材に、現代日本の深層「家庭内暴力、思春期、悩める父親、母と娘の問題」などに切り込みます。誰でも知っている昔ばなしの新しい読み解き方が新鮮。

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