2018/03/09発行 ジャピオン957号掲載記事

共感マーケティング

第169回 フックしちゃうぞ

 昔、1984年のことです。岡山から倉敷へ車を走らせていると、左方面に逆さまになった喫茶店の建物が現れてびっくりしたことがあります。現に、驚いて事故を起こす車が多発したので、手前に「逆さまの建物注意」のイラストを描いた看板が立てられました。

逆さま喫茶店 

 喫茶店の名前はパピン。当時私は建材営業をしていて、ご愛顧いただいていた事務所の設計でした。わざと逆さまにして、注意を引く作戦ですね。今でいう「インスタ映え」のはしりと言えます。検索すると店の前で記念撮影した画像が出てきます。

 現在は当時と比較して一人の人間を襲う情報量は格段に多い。注意の奪い合いは80年代とは比較にならないでしょう。だから、「フックする仕掛け」が必要です。「フック」というのは、注意をつかまえるという意味で使っています。

 SNSはネタの時代。料理が運ばれてきて、温かいうちにすぐ食べればいいものを、まずスマホでパシャ! もう珍しい風景ではなくなりました。料理もネタになっています。

 もちろん、絶景の風景もネタ。新幹線が富士山横を通り過ぎるとき、車内全体がシャッター音で満たされます。本稿執筆時点、日本は各地で雪の被害が発生しています。それでも、自宅前にこんなに雪が積って出られないよー、とか、車が雪で埋もれた、など、一般的には大変な状況が「ネタ」としてフェイスブックに投稿されます。みんながネタ探ししているとも言えます。だからといって、いまさら店を逆さまに建築し直すわけにはいかない(笑)。いえいえ、フックというのはそのような大げさなものではなく、「ほんの小さな仕掛け」でいいのです。

すべてをフックに 

 私がやっていることをご紹介しましょう。まず、名刺。沖縄在住のアーティストに描いていただいたオリジナルイラストを使い、ぶ厚めの紙に印刷しています。「よくある名刺」とは一線を画していますが、「eight」など名刺管理アプリで撮影した時にも必要な情報(名前、会社名、メールアドレス、ウェブサイト)が記載されています。この名刺だけでも、初対面の人と話が弾みます。

 請求書などの封緘(かん)をJOYWOWオリジナルイラストマークを手描きします。これで見た人は思わずニコリとなって、気持ちよく請求金額を支払っていただけるのではないかと(笑)。

 持物はなるべくJOYWOWカラー(オレンジ)のものに統一しています。ペンケース、iPadのカバー、リュック、タオルハンカチ…。このように、「どうせ必要なもの」であるなら、すべてをフックする道具として考えるのです。

 沖縄の炭火焼きとイタリアンの店「torico」は、メニューに、予約してくれたお客さまの名前を手書きします。また、洗面台にある鏡を記念撮影用にし、「toricoで飲んでます!」の吹き出しセリフを描いています。SNSに投稿したら必ず店名が出る仕掛けです。

 大阪の「堺筋倶楽部」は昭和初期に建造された銀行の建物を利用したレストランです。太平洋戦争の大空襲、阪神・淡路大震災をくぐり抜けた頑丈な造り。1階がイタリアン、2階以上がフレンチの個室になっています。4階がボールルーム。ピアノが置かれ、結婚披露パーティーも可能です。古い建物なので、エレベーターがない。4階まで狭い階段を上がります。でも、天井がすごく高い。新しい建築ではあり得ないぜいたくな空間。

 古いものを古いまま。不便は不便なまま。これも強力なフックです。

阪本啓一

今週の教訓
注意獲得戦です

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

技術の街道をゆく

「武田信玄は、堤防の上を祭りの順路にして人々に歩かせ、堤防を踏み固めていくのと同時に、いざというときのための逃げ道に慣れ親しませたという。これこそ学ぶべき人間の知恵だと思うのである。」(本文から引用)

 技術というと、「外から取り入れる」ものと、「試行錯誤の上でつかみとる」ものがあります。著者によると、日本は明治からこのかた、海外の優れた技術を取り入れる発想に慣れきってしまっていて、自分がジタバタしてつかみとることがおろそかかになっているのではないかとのことです。

 50年、自分の足で日本の各地を回って、現地・現物・現人、すなわち「3現」に触れてきた結果をまとめたもの。各地に残る神社は昔から津波の被害に遭うと、避難所として使われてきた。だから神社は津波の最終到達地点上に建っているのではないか、という仮説は非常に面白い。

 津波のような自然災害への対処から、有田焼から発見する「(美のために)変えないために変える」視点など、思わず膝を乗り出す話が満載。

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