2018/03/02発行 ジャピオン956号掲載記事

共感マーケティング

第168回 補助線を引く

 マーケティングやブランディングというと、何か特別なことをする感じがしますが、簡単に「製品・サービスと対象となるお客さまの間に補助線を引く」と考えてみてください。導線、と言い換えてもいいです。

紅茶を揺さぶる 

 リプトンが昨年から取り組む「グッドインティー」。特別な容器に紅茶を入れ、そこに好みのドライフルーツを入れて楽しむドリンクです。昨年大阪梅田のディアモールで期間限定ポップアップストアがありました。この時は「フルーツインティー」として、アイスティーに好みのカットフルーツを入れ楽しむものでした。いつ行っても行列で、最長4時間待ちだったそうです。

 「紅茶」という、これまで「動き」が少なかったカテゴリーに「フルーツを入れる」「自分の好みにカスタマイズできる(組み合わせは4万通りといいます)」「並んで買う達成感=楽しさ」が相まって、人気を呼んだのでしょう。確か1000円だったと思いますが、あれが無料なら、ここまで行列にならなかったと思います。インスタに上げる動機は「1000円もする紅茶ドリンクを長時間並んで買う私」が背景にあるのです。

 これらの要素が全て、紅茶に新しいお客さまを呼び込む補助線になったのです。ただの物体としての紅茶に揺さぶりをかける効果があります。

物体がもたらす体験 

 岩崎邦彦静岡県立大学教授の面白い調査があります(*)。

●トマトの購入に1回あたり( )円まで払うことができる

●茶葉の購入に1回あたり( )円まで払うことができる

 カッコに全国2000人の消費者に金額を入れてもらいました(2017年2月)。平均値は、「トマト」329円、「茶葉」848円。次に、別の質問をします。

●おいしさの感動に( )円まで払うことができる

●リラックスしたひとときに( )円まで払うことができる

 同じく2000人に聞いたところ、次のような数字が出ました。「おいしさの感動」5292円、「リラックスしたひととき」3943円。価格とは手にする価値を可視化したものです。

 お分かりですね。お客さまは「トマト」が欲しいのではなく、「おいしさの感動」が欲しい。ならば、1個5000円のトマトがあっても、感動が得られるなら、お金を出すということです。3000円のお茶にお金を出すということなのです。つまり体験にお金を出す。「トマト」「茶葉」という物体とお客さまの購買動機に補助線を引くのです。

冷やしあめから小屋へ 

 NHK朝ドラ「わろてんか」ヒロインは、演劇小屋の物販の売上を上げるために、冷やしあめの瓶を氷の上でゴロゴロさせて「冷えてますよー。おいしいですよー」と通行人に呼び掛けました。冷やしあめを買ってくれたお客さまには、「面白いですよー」と小屋へも誘導します。夏の盛り、水の中で冷やすより氷の上をゴロゴロのほうが現実に冷えるし、冷たそう、おいしそうです。これは吉本興業創業者吉本せいが実際にやったことといいますが、才覚がありますね。補助線が引かれています。

 あなたが売っている商品がモノであれ、コトであれ、揺さぶりをかけ、価値が分かるようにし、思わず「欲しい!」と点火するような補助線を引くことが可能です。そしてその補助線の成分は「共感」です。これが商売の知恵の絞りどころであり、楽しみなのです。
(*)岩崎邦彦「農業のマーケティング教科書」(日本経済新聞出版社)

阪本啓一

今週の教訓
ただのモノ・コトを
揺さぶりましょう

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

この世でいちばん大事な「カネ」の話

「わたしにとって『才能がある』というのは『それでちゃんとカネが稼げる』ってことだった」(本文から引用)

 父が脱サラして起業し、軌道に乗って大きな自宅を購入、順風満帆だったところへお決まりの浮気。結果、両親は離婚し、私は母に引き取られ、木造モルタル2階建て文化住宅の一室へ引っ越しました。お風呂のない、三畳六畳二間の生活が始まりました。5歳、幼稚園にあがる前のことです。

 ところが、狭くても、何でも、母との生活は楽しかった。お金はなかったはずです。でも、悲しい思いとかは全くしませんでした。

 だから、「お金と幸福度は比例しない」と思っていますが、それでもこの本を読むと、圧倒的な迫力で、お金についての哲学が生きていく上で必要だよね、と痛感します。

 そして、「才能とは、それで稼げる力のこと」という点、まさに普段から私が言っていることと一致します。

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