2018/02/16発行 ジャピオン954号掲載記事

共感マーケティング

第166回 SNSで個人芸を磨く

 ある消費財のマーケティングについて戦略を見直すことになりました。

 従来お客さまとのやりとりは販売店にお任せでした。ところが、スマホとSNS全盛のこの時代、お客さまとダイレクトに絆を築き、育むことが重要であり、そのためにはこれまでの顧客戦略を180度転換しなければならない。具体的には、フェイスブックによる情報発信とお客さまとのダイレクトなやりとり。

誰もやったことない 

 さて、では、誰がやる? となったとき、その場にいる誰もアカウントを持っていないことが分かりました。

 大企業の社員は、実名顔写真での投稿に二の足を踏みます。いわく、「上司が行動をこっそりピーピングしているのではないか」、「休暇を取ったら『おい、あいつハワイ行ってたのか、こっちは忙しかったんだぜ』と同僚からやっかみを受けかねない」「万が一炎上したら関係部署への対応に時間をたっぷり取られそう」…。ネガティブな予想ばかりが並びます。まさに食わず嫌い。そしてこういう場合よくある案が、「業者さんに外注しましょう」。しかし、私の経験では、SNSを外注に出して、目覚ましい成果を上げている事例を知りません。みんな、分かるのです。ネットショップ経営者は日々、直接お客さまとのやりとりを積み重ねています。お客さまもそれに慣れています。

匿名化に慣れた個人 

 大組織は、個人を薄める性格を持っています。個人が企業の看板の影に隠れて匿名化する。これは社外に出ると実感します。相手はあなたより、あなたが所属する組織と話します。あなたも、所属組織を代表して話します。

 こうして、寄らば大樹の陰の意識が知らず知らずの内に育つのです。寄らば大樹の陰というのは、匿名と同じ。しかし、組織の寿命が人間より短命化しています。

 高度経済成長時代は、組織はずっと成長し存在し続けた。だから30年の住宅ローンを組んでも30年後、組織がなくなることはなく、支払い続けられる確信があった。しかし、そんな長寿の組織は珍しくなりました。

 環境変化が激しく、著名な大企業でもあっという間に倒産する時代です。組織に寄り掛かることはできません。

 だから、個人芸を磨く必要があります。匿名ではなく、名前を売る、顔を売る。そのためにSNSはうってつけの練習場所です。

組織外で個人が目立つ 

 私は、旭化成社員時代、パソコン通信のフォーラムで「毒舌キャラ」で目立ち、ときには炎上したりしながら、自分の芸を磨いてきました。

 「旭化成の阪本」ではなく、「阪本」単品看板でネットワークを築いていきました。独立するとき、「阪本看板」の知人、友人ネットワークは大きな自信になりました。彼らから仕事をもらうという意味ではなく、精神的応援団として心強かったのです。

 逆説的ですが、組織外で個人として目立ち、個人ブランドがはっきりすればするほど、組織にとっても「貴重な存在」になります。「レア」に価値がつき「余人をもって替え難し」となるわけですから。つまり、社外の安定が、社内での安定につながるのです。

 SNSで発信する時、「何か一つ」に絞るといいです。何食べた、とかどこ行ったではなく。知人は東京タワーをひたすら写真に撮って投稿しています。すると、「東京タワーの**」というブランドができるのです。絞りましょう。

阪本啓一

今週の教訓
個人芸の時代です

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

ひとまず、信じない 情報氾濫時代の生き方

「インターネットの出現は、個人が手にできる情報の精度を、それまでよりも格段に落としてしまった。」(本文から引用)

 著者の作品は「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」を始め、どれも観たことがないのですが、非常に考え方が似ているので驚きました。本稿を書いているまさに今、ある週刊誌の不倫報道をきっかけに著名な音楽家が引退表明し、ネットで炎上しています。

 週刊誌の行き過ぎた報道姿勢に対して批判的な意見が大勢を占めています。しかし、一方、それを楽しむ国民の「ニーズ」も確実にあるわけです。あるから週刊誌としてビジネスが成り立つ。私は、それより今夜の晩飯の方が気になるので、「どーでもいい」という意見。

 報道されたものはすべて何らかの意図が込められている。そして、「真」なるものはどこにもない。すべて誰かの意図であり、意図の増幅なわけです。それくらいの「醒めた」姿勢が、必要な時代だと考えています。

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