2018/01/26発行 ジャピオン951号掲載記事

共感マーケティング

第163回 答えは一つではない

 仕事をしていると、悩みは尽きません。齢(よわい)を重ね今年還暦を迎える私でも、同じです。そういうとき、自分に言い聞かせる魔法の言葉があります。それは、「答えは一つではない」。私たちはどうしても、「こうすれば、こうなる」という論理的結論を導き出そうとします。

無限のバリエーション 

 背景にはサイエンスの方が人間の判断より優秀なはず、という根強い前提があります。もしサイエンスが万能であるなら、AIに「必勝」経営理論を教えこみ、意思決定させればどこの会社も繁盛間違いなし、ということになります。

 でも、そうはなりません。「必勝法」がまだ整備されていないからでしょうか。違いますよね。不確定要素が数え切れないほどある経営の世界で、「こうすれば、正解」が得られるはずもないからです。

 将棋は極めて数学的な論理に支配されるゲームです。AIを使えば、必勝法が生まれそうなものですが、羽生善治さんは「美しい手を指したい」とおっしゃっています。勝つことも重要ですが、美しい手を目指すとき、将棋は論理を超えたゲームになります。つまり、答えは一つしかない世界から脱却するのです。仕事や経営も同様と考えています。商売は、人が人に向けて行う営み。だからこそ、そこには無限のバリエーションがあっていいし、目指すものが「美しさ」だったり、「楽しさ」だったり、いくつあってもいいのです。

経営にアートを 

 2015年5月、戦略系コンサルティング会社マッキンゼー&カンパニーが、サンフランシスコのデザイン会社ルナ・デザインを買収しました。ルナはアップル、グーグルなどをクライアントに持つ大手です。マッキンゼーと言えば事実と論理を元に戦略立案することを売りにしているサイエンスばりばりの会社。そんなコンサル界の雄がデザイン会社と組もうとする理由は、おそらく、経営にアートな部分を取り入れる必要性を感じてのことでしょう。デザインはアートにリンクしています。そして、アートは、「これが正解」のない世界。事実と論理の先にある戦略を長く追求してきたマッキンゼーが正解のないアートにリンクしようという姿勢は、私たちも学んでいいと思います。

味が楽しい 

 私のスマートフォンの音楽ライブラリには、ジャズのスタンダード・ナンバー「On the Sunny Side of the Street」が何種類も入っています。本家ルイ・アームストロングはもちろん、デイジー・ガレスピーもいいし、ビリー・ホリデイ版も捨てがたい。楽譜にすればきっと同じなのでしょう。しかし、表現が全員違う。同じ曲が、違う顔を見せてくれます。ここが楽しい。それぞれの「人」がにじみ出てきているのが味なのでしょう。でもこれは音楽に限った話でしょうか? 私は、音楽に限らず、仕事全般に言えることだと考えています。

 つまり、「答えは一つではない」のです。すると意思決定する時、プレッシャーが和らぎませんか?「うまくいかなきゃ、変えちゃえばいいや」くらいのゆるい考えでいいのです。そして、全てのことに「かもしれない」とつける習慣を社内でシェアする。

 「このメニューはこの価格…かもしれない」「パッケージはこの色で…かもしれない」「そんなことしたら、迷いがさらに増えそうです」という方がおられるかもしれませんね。それに対するわたしの答え。「かもしれませんね」(笑)

 あ。今回のコラムのタイトルも、次がいいかもしれません。「答えは一つではないかもしれない」。

阪本啓一

今週の教訓
「かもしれない」を社内共通語に

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

洗脳 地獄の12年からの生還

「僕はすべてを失い、人生を諦めかけたときに、素晴らしい人との『奇跡の出会い』があった。そして、僕は考えを変え、残された力を振り絞り、一歩踏み出した。」(本文から引用)

 X JAPANは結成から30年のベテラングループですが、実はごく最近まで曲はおろか、メンバーに誰がいて、どんな歴史があってなど全然知りませんでした。たまたま正月の番組にYoshikiが出ていて、お菓子をぼりぼり食べる姿を見て興味を持ちました。

 ドキュメンタリー映画「We are X」を観て、彼らの音楽が自身の体験した痛みや喪失感から生まれていることに気づき、ちょうどいま取り組んでいるテーマ「仕事と人生を重ね合わせる」とシンクロしたのでした。

 Xは一度解散しています。そのきっかけとなったのがヴォーカルToshiの洗脳事件。本人の著書を読んでみて、その恐ろしさに背筋が凍りました。12年間もの洗脳を経たToshiのヴォーカル、今後ますます楽しみです。

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