2018/01/12発行 ジャピオン949号掲載記事

共感マーケティング

第161回 還暦起業家

 早いもので、今年は還暦を迎えます。中学生のころに還暦なんて耳にしたら水戸黄門さんのような老爺をイメージしていました。それが自分の年齢になるなんて!

 同期入社の会社員の友人たちは、関連会社へ行ったり、一足早く卒業したりする知らせがフェイスブックなどでやってくるようになっています。

 一般的には、還暦すぎたら仕事もセーブするか一線から卒業して、あとは配偶者と旅に出るとか地域貢献に精を出すとか、「ゆるやかに坂を下りる」映像が浮かびます。しかし、ロックな私はとてもとてもソファで猫を膝にのせ、にこやかに庭を眺めるような「老後」をすごす気になれません。まだまだ現役、お金も稼ぐし、あちこちで波風立てます。下り坂はごめんです。坂、上ります。路線バスで不倫騒動を起こしたいくらいです。

何もしない浪費
失敗という投資
 

 それでなくても会社の寿命が人間の寿命より短くなったご時世です。高度経済成長期は企業の寿命は人間より長く、「寄らば大樹の陰」ということで、一生を同じ一つの会社ですごすことも可能でした。しかし、ここまで変化が激しい時代になると、一つのビジネスモデルでうまくいったとしても、その賞味期限はとても短い。

 こういう時代、「守り」に入ったら確実に置いていかれます。攻撃、つまり、攻めなければ。古屋悟司さんは会計の本(「『数字』が読めると本当に儲かるんですか?」)でヒットを飛ばしたネットのお花屋さんですが、彼の名言に「何もしない浪費、失敗という投資」があります。人生の持ち時間は有限。ならば、何もしないで守ってばかりいるというのはその貴重な時間の浪費にほかならない。何かやってみたら思うに任せず失敗するかもしれない。でも、それは必要な投資だと。

 私の辞書に「失敗」はありません。すべて学びと考えています。還暦を迎えるにあたり、新しい事業を始めることにしました。「還暦起業家」と名乗り、ネットで目立とうと企んでいます。

JOYWOW
出版事業コンセプト
 

 JOYWOW共同経営者の小室由歌利の本を自社から出します。出版事業コンセプトはこんな感じです。

 AKB48が会いに行けるアイドルなら、由歌利は買いに行けるアイドル。紙の束としての物体ではなく、セミナー&ワークショップの内容を補足&補充するお土産。お土産だから、電子ではなく、部屋に飾りたくなるようなすてきな装丁、デザインの書物である必要があります。まー、ライブ会場や美術館のグッズのノリですね。お客さまは、「買う」ことで、「JOYWOW由歌利イベントに参加した充足感」を手にします。

 既存の出版流通に乗せず、あくまでセミナー資料としての扱いのため、届けてもらえないしネットでも買えません。著者に会いに行かなければ買えないのです。ギフトにしたければ、自分で買って、送ってください。1000部限定。増刷しない。寄贈しない。クライアントであろうと親戚であろうと誰であろうと、買ってくださいと。

 企画のレアな部分、つまりブランドのコア・バリューは、「アマゾンで買えない・届けてもらえない・会いに行かないと買えない面倒くささ」です。でも、著者が一人一人の名前をサインしてくれるので、世界にたった一つの本になります。いかがでしょう?とんがってるでしょう?うまくいかずに、大量の在庫でオフィスが埋まることになるかもしれません。その時はこの連載で正直にご報告します(笑)。

阪本啓一

今週の教訓
まだ坂、上ります

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

小さな出版社のつくり方

「ゼニカネの勘定だけではなく何かをすること、もしかしたら、いま本をつくる意味、出版社を興す意味は、そこにあるのかもしれない。」(本文から引用)

 出版事業を始める参考に読みました。小さな出版社を始めた11社、12人に取材した内容です。この本を出している猿江商會も小さな出版社で、社長の古川聡彦さんが1人で始め、1人で何でもこなします。

 日本の新刊市場はこの20年、縮小し続けています。理由は人口減、スマホの普及など、複雑な要因が絡み合っています。先日、出版関係者から聞いたのは「文庫が社会的使命を終えた」という話。「単行本発売と同時に電子版が出るわけで、文庫の意義が薄れている」とはその人の分析です。確かに書店で文庫コーナーに人が群がる姿はあまり見られなくなりました。取次の倒産、出版社の経営難など、私自身も耳にします。

 いい話はあまりありません。「だからこそ」出版には未来がある。私もそう考えています。

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